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第26話 恋に恋するでもない話5p

 天谷も榎本も、揃って、なんとなく無言で頭上のチカチカと点滅する蛍光灯の明かりをぼんやりと見た。  二人でぼんやりと、失恋の後の空気を吸っていた。  今、時は止まっているのでは無いかと思えるほどにゆっくりと流れていた。 「あ」  榎本が急に声を上げた。  その声に天谷は驚き、ビクリと体を震わせて榎本の方に首を向けた。  榎本は気まずそうな顔で、「あなた、日下部くんの友達……なんだよね? カフェテリアでは、変な勘違いで日下部くんとの仲を追求しちゃって。私、ちゃんと謝らなかったよね、本当にごめんなさい」と頭を下げて天谷に謝った。  いきなり謝られた天谷は慌てる。 「あ、いや、勘違いっていうか……げふんっ! げふんっ! うん、べ、別に気にして無いから!」 「なんて言うか、ビックリしたのよ。写真の子……あなただけど、めちゃくちゃ綺麗で、この子が日下部くんの彼女とか、私終わったって思ってたら、学校にあなたがいてさ、しかも男だし、もうパニックよ。写真だとメガネもかけてないから初めはまさかって思ったんだけどね。……でも、本当、よかった。万が一でもあなたが本当に日下部くんと付き合ってたら、私、かなり落ちてたかも、死んだかも。よく考えたら、そんなわけないよね。本当にごめんね」 「いや、本当に気にして無いからっ!」  そう言う天谷の声は裏返っていた。 (日下部と俺が実は付き合ってるとか、この子に知られたら絶対にマズイだろ! 隠せ、俺!)  天谷の額に薄っすらと汗が滲む。 「あの、顔色悪いけど……やっぱり本当は怒ってる?」  榎本が不安そうに聞く。 「いや、無いよ、無い。怒ってるとか。俺が怒れる立場じゃ無いっていうか、いや、とにかく、大丈夫だから!」 「立場って? そうなの? まあ、大丈夫ならいいんだけど」 「大丈夫! 大丈夫!」 「うん、ありがとう。……あの……あ、そうだ! あなた、学校であんまり日下部くんといるとこ見ないけど。私、あなたと日下部くんが一緒にいるとこ見たの、さっきのカフェテリアが初めてかも」 「ああ、俺、学校ではたまにしか日下部とは一緒にいないから。あいつ、友達多いから、学校ではいつも他のやつといるし」 「ああ、クイーン達とか?」 「え、クイーンって?」 「嵐さんのことよ。あの人、いつも日下部くんとか、人気の男子をはべらせてるから一部の女子達に裏でクイーンって呼ばれてるのよ。女王蜂嵐……クイーン嵐って」 「なんだよ、それ。嵐って女子に嫌われてるわけ?」 「ううん、その逆よ。嵐さんは女子に人気あるよ。クイーンはリスペクトの意味よ」 「ふぅん、女子ってわかんないな」 「ははっ。ねぇ、クイーンって絶対に日下部くんのこと好きでしょ?」 「あ、やっぱりそうなのかな?」 「決まってるって! あーっ、日下部くん、今は学校の女子ではクイーンと一番の仲良しだし、やっぱりクイーンと付き合っちゃうのかなぁ。彼女、可愛いし、男子の人気凄いし……はぁ。クイーンとなら仕方ないかなぁ」  榎本が遠くを見て言う。 (嵐と日下部が……もしも付き合うとしたら、俺よりずっとお似合いだな)  天谷はそう思って、何を考えているんだと首を振った。 「……あ、ねぇ、あなた、学校以外では日下部くんと一緒にいるってこと?」  榎本が、話を嵐から逸らすように天谷と日下部の話題に戻した。 「うーん、そうだな。日下部ん家とか行って一緒にいる」 「日下部くんの家に?」 「うん、あいつ、アパートに一人暮らしでさ」 「そのアパートにあなた一人で行くわけ?」 「うん、そう」 「二人で日下部くんとなにしてるの?」 「え、なにって……」  天谷は考える。 「えっと、二人で、課題やったり、ゲームしたり……ホットケーキ作ったり……後は……泊まって、ソファーで寝て、起きて、日下部の作る朝飯食べて……」  言葉の途中で天谷の顔が微妙に歪む。 「日下部くん、料理作るんだ!」  榎本が興味津々と言う風に明るい声で言った。 「あ、うん、あいつ、料理とか好きみたいで……」 「へぇ、いいなぁ、友達同士で楽しそうで」  榎本がしんみりとそう言う。 「友達同士……」  天谷もしんみりと言う。

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