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第27話 恋に恋するでもない話6p
(こいつの言う通りじゃん。俺と日下部って友達同士以外の何者でもないことして一緒に過ごしてるんじゃん。なんだよ、俺達、めちゃくちゃダメじゃん。現在、ただの友達でしかないじゃん!)
天谷は日下部との現実的な関係に今更気付いた自分を心の中で罵った。
そんな天谷の心境は知らずに榎本は話を続ける。
「私もせめて、日下部くんと友達にでもなれたらよかったな。はぁーっ、ただ見てるだけのやつが好きとか告白するなんて、笑っちゃうよね」
榎本は笑った。
(うっ、俺、日下部に好きとか言ったことない。日下部だって俺に言ってない。俺達はなにやってんだよ! 俺達、これで付き合ってるとか、笑っちゃうよ!)
天谷はお茶の缶を強く握った。
缶が音を立てて少しへこんだ。
(つか、俺、日下部の笑顔がいいとか思ったことも無いし。いや、あいつの笑顔、悪くはないけど、嫌いじゃないけど、笑顔一つで日下部を好きとかじゃないし……そう言えば俺って日下部の何がいいんだよ? なんで俺は日下部と付き合ってる?)
天谷はさらにお茶の缶に力を入れる。
お茶が溢れて天谷のシャツを汚したが、天谷は構わなかった。
「あの……」
榎本が天谷に声をかけるが天谷の耳には届かない。
(いや。そもそも付き合うってなんだ? ただ一緒にいるだけじゃダメなわけ? 日下部といると楽しいってだけじゃダメなわけ? ああーっ! わかんねーよ!)
「あのっ! 大丈夫? なんか、様子がおかしいけど」
榎本が心配そうに天谷の顔を覗き込んだ。
天谷は、ハッとして、青い顔で大丈夫だと答えた。
「あの、え、榎本さん、ちょっと聞きたいんだけど」
「へ? なに?」
「付き合うって何?」
天谷の問いに、榎本はポカンとした顔をした。
「ちょっと、大丈夫じゃないじゃない。おかしいわよ。それ、日下部くんと付き合えなかった私に聞くこと?」
「いや、いや、ごめん。なんか俺、ちょっと頭の中ぐちゃぐちゃになっちゃって。ごめんなさい」
天谷は何だか今にも泣きだしそうな頼りない声で言う。
「……はぁ、まあ、いいけど。うーん、付き合うって、ねぇ。私もよくわからないけど、お互い好き同士が一緒にいてさ、気持ちを伝えあったり、手とか繋いでデートしたりしてさ。キスとかで盛り上がったりして。たまに喧嘩したりして、でも直ぐに仲直りして。バレンタインに張り切ってチョコ手作りしてプレゼントしたり……二人で一緒にいて、それだけで幸せって、そう言うこと、じゃないの?」
榎本はそう言って、日下部を思ってか、ため息を吐いた。
天谷もため息を吐く。
天谷のため息は深かった。
(はぁーっ? 俺達、気持ちを伝えあったりしてないし、手を繋いでデートって……無い無い! デートとか、何? 遊びには行くけど、そんなんじゃ無いだろ! き、キス? 日下部とキス? バレンタインって……無い無い、全部無い! あ、喧嘩はしてる……って、アホか!)
天谷はなんとなく、このまま榎本の側を離れたい気持ちになっていた。
自分で話を振っておきながら榎本の話をこれ以上聞いてはいけないような気に天谷はなっていた。
榎本はチカチカする蛍光灯を、目を細めて見て、口を開く。
「私、日下部くんを見ているだけで初めは幸せだったけどね、やっぱり一人じゃなくてさ、日下部くんと二人で幸せを感じたかった。私がいることでさ、日下部くんが笑ってくれて、日下部くんが幸せだって思ってくれたらいいなってさ、そう思って。だから付き合いたかった」
榎本が両目をそっと伏せる。
「榎本さんは日下部を、幸せにしたいってこと?」
天谷は切ない色を含む声で榎本に聞く。
榎本は目を開いて真っ直ぐに天谷を見た。
天谷と榎本の時が止まる。それは、永遠では無い。
「うん」
榎本は、はっきりと答えた。
「俺、日下部のこと、そんな風に思ったことない」
そう言う天谷の声は掠れていた。
「いいんじゃないの、ただの友達なら」
榎本が優しい笑顔でそう言う。
天谷は俯いた。
天谷の心の深いところがズキズキと音を鳴らした。
(なんか、痛い)
天谷は胸を押さえる。
刺されたような痛みが天谷を苦しめた。
天谷の口は榎本に「敵わないな」と告げていた。
榎本は微妙な顔で、何故か頷いた。
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