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第33話 天谷、日下部、小宮の高校時代1p

 まだ、だいぶ明るい時間。  大学の帰り道を天谷雨喬と日下部光平は二人で並んで歩いていた。  天谷は歩きながら小説を読んでいて、そのため二人は全く会話をしていない。 (何も、二人でいる時に本を読まなくても良くないか? 本当、自由なやつだな)  小説に夢中になっている天谷の横顔を見て日下部はため息を漏らした。   「おーい、日下部に天谷!」  二人の友人、名前を呼ばれて二人は声のする方を振り返える。  小宮一二三が手を振りながら走って近づいて来る。 「なんだ、小宮か」  天谷は小宮を一瞥するとまた小説を読み始めた。 「ひどいな、天谷」  日下部がそう言っても、天谷はふんっ、と鼻を鳴らしただけで小説から顔を上げなかった。  日下部はそんな天谷に呆れた様な視線を浴びせるが、天谷はそれには気付かない様で黙々と小説に目を走らせた。 「よう、お二人さん、帰りだろ? 俺も混ぜてくれよー」  そう言う小宮に日下部は、良いぜと言って、天谷は小説を読みながら、ただ頷いた。  陽気な小宮を合わせて、三人は狭い道を斜めに並んで歩いた。(道が狭すぎて横に並ぶのは無理だった) 「まさか、小宮と帰りが一緒になるとは思わなかったぜ。なぁ、せっかく三人揃ったことだし、このままどこか遊びにいかねぇか? 三人で出掛けるの、しばらく無かっただろ」  日下部がそう言うと、小宮が、「お、いいねぇ」と乗り気な様子を見せる。 「俺はこのまま帰りたい。お前らと一緒にいると疲れるからな」  天谷は手に持った小説を読みながらそっけなく言った。  そんな天谷の態度に小宮が口を尖らせる。 「はぁ、つれないねぇ、天谷先生は。たまにはいいじゃん、遊びに行こうぜ。それに、先生、仲間と一緒にいるのに本なんか読んじゃって。何読んでるん?」  小宮は天谷から素早く小説を取り上げる。  天谷が、「あっ」と声を上げる。  小宮はカバーを外して表紙を見る。 「へぇー、江戸川乱歩じゃん。短編集かぁ。良い趣味してじゃん、天谷先生」 「返せよ、小宮。それ、借り物だから!」  天谷は小宮から江戸川乱歩短編集を取り返すと大事に鞄にしまう。 「借り物って、まさか、世界史のお友達からかい?」  小宮に聞かれて、天谷はそうだと頷いた。  江戸川乱歩短編集は天谷の友人である不二崎史郎から天谷が借りた物だった。  不二崎は天谷が自由選択科目に選んだ世界史で天谷と同じ講義を受けている。  小宮と日下部は不二崎とは面識はなかった。 「はぁー、なんだかそのお友達に妬けちゃうわ。俺達よりそのお友達の方が天谷先生は大事なのねぇー」 「はぁ? 小宮、そんな事言ってないだろ」 「そうは言うけど、俺らを無視してお友達から借りた本に夢中になっていたじゃん、なぁ、日下部」 「うん、まぁ、そうだったな」 「は? 日下部まで何だよ。日下部、小宮の味方かよ!」  そう言って、天谷は日下部に鋭い視線を向ける。  日下部は苦笑いをする。 「天谷ちゃんはずっと俺達だけの物と思っていたのに、妬けちゃうわぁ。天谷ちゃんが俺らの知らないお友達とよろしくやってるだなんて、ねぇ、日下部さん」  小宮が変な声を出して言った。  小宮は全くふざけていた。  日下部は、小宮の、この態度にも苦笑いで「別に良いんじゃなねぇの。内気な天谷が人間関係しっかり学ぶチャンスだろ」そう答えてあしらった。  余裕のあるその日下部の態度は次の小宮の台詞で簡単に崩れる事になる。 「あらまぁ、日下部さん。そんな余裕かましているうちに天谷ちゃんをそのお友達に取られても知らないんだから。どこか潔癖の気のある天谷ちゃんが本を借りるって、そのお友達とけっこういい関係ってことよ。うかうかしてたら天谷ちゃん持ってかれちゃうわよー」 「な、バカ言うなよ! 天谷は……」  日下部が叫ぶ。 「あーっ、うるさいな! お前ら、何の心配してんだよ!」

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