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第34話 天谷、日下部、小宮の高校時代2p
「あははっ、アンタたち、元気だねー。アタシも一緒していい?」
騒がしい三人に声がかかる。
声の方を三人が振り返ると、そこには嵐糸がいた。
「またうるさそうなのが増えた」
天谷がげっそりとした顔でそう呟いた。
前に日下部、小宮、後ろに天谷、嵐という具合に二列に並んで道を歩いた。
黙っている天谷以外は大学の話などで盛り上がっている。
「天谷、アンタずっと黙ってるじゃん。なんか話しなよ」
嵐に言われて「何かって何だよ」と天谷が言う。
「はーっ、何それ。面白くないヤツだねぇ。そんなんじゃ友達出来ないぜ」
そう言う嵐に、天谷は余計なお世話だよとそっぽを向いた。
天谷に相手にされなかった嵐はむくれる。
「可愛くないねぇ。こんな可愛げのないヤツと、アンタ達はどうして付き合ってるわけよ」
日下部と小宮の二人に嵐はため息を吐きかける。
日下部と小宮はお互い顔を合わせて苦笑いをした。
「アンタ達三人、確か高校からの付き合いだっけ? ねぇ、アンタ達ってどうして仲良くなった訳よ。日下部と小宮はともかく、天谷まで一緒につるんでいるなんて、天変地異でもない限り有り得ないんじゃない?」
好きかってに言う嵐に、小宮が、「まあ、確かに天変地異があったかな」と言う。
「え、なになに、どういう事? 聞かせてよ。何があってアンタら仲良くなった訳よ?」
話に食いつく嵐を小宮は楽し気に見る。
「えー、どうしようかなぁ。その話をするには、ほら、前に見せた天谷の女装写真の件が外せないんだけど」
小宮がそう言うと、天谷が思い切りむせた。
「天谷の女装写真、その話、興味あるわ。聞かせろよ、小宮」
嵐は好奇心で目を輝かせる。
小宮は、「どうしようかなぁ、な、天谷」と意地悪そうな顔をして天谷の顔を見る。
小宮の見た天谷は鬼の様な形相だった。
「小宮、絶対に余計な話しするつもりだろ。一言も話すな」
「だってさ、ごめんよ、嵐、話したら鬼の天谷に殺される」
「ええーっ、じゃあ、日下部、聞かせてよ。高校時代の話」
突然話を振られてハッとしている日下部を天谷が刺すような視線で睨んでいる。
日下部の血の気がスゥーッと引いて行く。
「えーっと、俺も天谷が怖いから無理だわ。また今度な、嵐」
「今度なんて来るか、バカ!」
天谷は頬を膨らませると一人、速足で歩きだす。
「あ、待てよ、天谷!」
日下部が天谷を追う。
それに小宮と嵐が続く。
天谷に追いついた小宮が天谷の肩に腕を掛けながら、「なあ、天谷、四人でこのまま遊びに出かけようぜ。良いだろ。余計な話はしないからさ」と、天谷を誘う。
「おっ、イイじゃん、行こうよ。天谷」
嵐が天谷の腕を引っ張りながら言う。
「う、でも、俺っ」
天谷は横に並んでいる日下部の顔をチラリと見る。
天谷と日下部の目が合った。
日下部は、天谷に柔らかく笑いかけた。
その笑顔に天谷の顔が赤くなる。
「行こうぜ、天谷。なんか奢ってやるからさ」
日下部はそう言って天谷の頭を撫でた。
「……分かったよ。行くから」
天谷は顔を上げずに小さな声で言った。
四人は騒ぎなから駅まで歩く。
「でも、知りたかったな、アンタ達の高校時代の話。何でアンタ達が友達になったのか知りたかったよ」
嵐がぽつりと言った台詞に、天谷は「そんなのこっちが聞きたいぐらいだよ」と呟いた。
その天谷の呟きは「電車来るぞ」と叫ぶ小宮の声にかき消され、誰も聞くことは無かった。
四人は駅のホームへと続く階段を駆け抜ける。
その四人の後ろ姿はどこか眩しい。
青春を生きる者の持つ眩しさだ。
高校時代、天谷、日下部、小宮、三人の後ろ姿もひときわ眩しかった。
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