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第35話 天谷、日下部、小宮の高校時代3p

 この時彼らはまだ高校二年生で、今以上に不器用で、故に、時にがむしゃらに、時に適当に、ただ真っすぐに前を見てそれぞれの道を歩んでいた。  彼等がたどる道への選択、それが正しい事なのかは誰も教えてくれない。  彼らはただ、不器用に前へ、前へ……。  季節は秋。  二年六組と書かれたプレートの下がる教室から、廊下へ生徒達の騒がしい声が漏れていた。  小宮一二三は教室で午後四時を過ぎた時計の針を、あくびを噛み殺しながら眺めていた。    文化祭の出し物を決める為に開かれたホームルームの時間はグダグダとした生徒達によりなかなか進まずに伸びに伸びていた。  教室の檀上ではポニーテールの学級委員長が纏まりのないクラスメイト相手に四苦八苦している。 「出し物、何にするか、皆、真面目に考えて。決まってないの、ウチのクラスだけだよ。ホームルームの時間も伸びているし!」  委員長が叫ぶ。  ホームルームの時間が伸びているという委員長の台詞が効いたのか、一部の生徒達からぼちぼちと案が出始めた。 「お化け屋敷とかどうなの」  誰かがそう言うと、委員長が、「お化け屋敷はもう一組がやるって」と言う。  その後も色々な案が出たが、どれも他のクラスがすでに決めてしまっているものばかりだった。    小宮はクラスメイトがああでもないこうでもないと言い合っているのを頬杖をついて眠たそうに聞いていた。 (あー、昨日遅くまでゲームやってたから眠いわ。早く家帰って寝て―なぁ。ホームルーム、早く終わらんかな)  小宮は大きくあくびをすると、何げなく隣の席を見た。  隣の席には眼鏡をかけ、顔を長い前髪で隠した背の高い男子生徒が座っている。  彼は、俯いて机の上をジッと見ていた。 (コイツ、確か天谷だっけ。そう言えば俺、コイツと話した事全然なかったよな。つか、コイツが誰かと口を聞いてる所を全く見た事無いんだけど。コイツってば、いつも独りでいるし……コミュ症ってやつか。てか、コイツ前髪伸ばし過ぎだろ)  ただ隣の席というだけで全くの他人、どういう人物かわからない相手のことを、小宮は、暇ゆえか、知らない内にじっくりと観察していた。  彼は、ただジッと机の上を見ているばかりで何の面白みも無かったが、小宮は、そんなことは構わずに彼を見ていた。  ふと、彼がかけている眼鏡を外し、前髪をかき分けて、眼鏡のレンズを拭き出した。  彼の前髪に隠れた顔が露になる。  小宮はその顔を見て息を呑んだ。 (コイツ、綺麗な顔してんじゃん)  彼は目が覚めるくらいに綺麗な顔をしていた。  同性の小宮から見ても見とれてしまうほどだった。  綺麗で、儚げで、どこか少年の幼さが残っていて。  こんな容姿をしていて今までどうしてクラスで目立たずにいれたのかと小宮は首を傾げた。 (クラスどころか、こんな顔してたら学校中で噂になんだろ)  小宮は誰も見つけていなかった鉱脈でも探し当てたかのように気分が高揚した。  彼は眼鏡を拭き終わると素早く眼鏡をかけて前髪で顔を覆った。  彼の素顔が隠れても、小宮は飽きずに彼を見ていた。 (コイツ、コイツの顔、誰かに似てる気がするな。誰だっけ。知り合いの誰かか……)  小宮が彼の顔を見ながらあれこれと考えていると、彼がいきなり小宮の方を向いた。  小宮は慌てて彼から視線を逸らす。 (あぶねー、見てたこと、バレたかな)  小宮の心臓の鼓動が早まる。

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