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第37話 天谷、日下部、小宮の高校時代5p
「じゃあ、出し物は決まったし、解散ってことで!」
誰かが元気よくそう言うと、生徒達はバラバラと席を立つ。
委員長が教室を出ようとしている生徒に向かって「出し物の詳しい話はまた次のホームルームでするからね!」と呼びかけた。
「小宮、アンタも次のホームルームは出し物の発案者としてしっかり参加してもらいますからね」
「ほっとけよ、委員長!」
小宮は委員長に声を荒げて言ってから机に顔を埋めた。
「はぁ、俺、女装かぁー」
すっかり気を落としている小宮の周りに小宮の友人達が集まって来た。
「小宮ちゃん、女装頑張れよ」
「小宮、意外と女装似合うんじゃないか」
好き勝手に言う友人達に小宮は不貞腐れた顔を向ける。
「お前ら、他人ごとと思ってふざけるなよ」
「そうは言うけど、小宮、自業自得だろ。せいぜい頑張れよ」
「はん、薄情者。俺は帰るぜ」
小宮は席を立つと、鞄を背負い、教室に残る友人達に手を振って教室を出た。
小宮は速足で廊下を進んだ。
途中、声をかけてられたクラスメイトや友人とたわいのない話をして別れる。
(はぁ、皆、ホームルームでの事、からかいやがって)
小宮は一人、ため息をついた。
小宮が階段を降りようとしたとき、背中から、「あの」と声がかかった。
小宮は「ん?」と振り返り、声の主を見る。
「天谷」
小宮は気まずそうな顔で、声の主、天谷の名前を呼んだ。
天谷は唇をぎゅっと結んで、揺れる目で小宮を見ていた。
小宮は下りかけた階段を戻り、天谷の目の前まで行くと、パンツのポケットに両手を突っ込む。
「何?」
訊かなくても要件は分かっているはずなのに小宮はそう言った。
威圧的な小宮の態度に、天谷は少し怯えたような顔を見せる。
「あの、えっと。君、ホームルームでのアレ、どういうつもり?」
若干震える声で天谷は言う。
「あー、アレ、何て言うかなぁ」
小宮はバツが悪そうにした。
(急にお前の事がムカついてとか言えないよな)
小宮は何も答えられなかった。
下を向いてしまった小宮を、天谷はどうしたらいいのかわからないという風に見た。
「俺、君に何か悪いことでもした?」
思いついた様にそう言うと、天谷はかけている眼鏡の縁に両手の指を添えた。
その指は小さく震えている。
小宮はその震える指先に気付いた。
「いや、そういうんじゃなくて、あーっ!」
小宮は重い頭を下げて唸る。
「じゃあ、なんで?」
切なげな声で天谷が声を上げる。
「何でって言われても、うーっ……」
小宮はパンツのポケットから両手を抜くと頭を押さえた。
そして、そのまま黙った。
そんな小宮を天谷は不安を宿した目で見つめる。
気まずい空気が二人の間を流れる。
「君、もしかして俺の事嫌い?」
不意に天谷にそう訊かれて、小宮は「は?」と顔を上げた。
「俺のこと嫌いだから、あんな嘘ついて困らせようとしたんじゃないの?」
「え、いや、違う。別にお前のこと嫌いとかじゃないけど。困らせたいとかも、思ってないし」
小宮は首を振る。
(嫌うどころか、今日までお前のこと気にもかけて無かったっての)
「じゃあ、何で君はあんなことした訳? 嫌いでもなく。困らせたい訳でもなく、どうして君は……」
一生懸命にしゃべる天谷の顔は切実だった。
そんな天谷の顔を見ている小宮にどうしょうもない感情が湧く。
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