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第41話 天谷、日下部、小宮の高校時代9p

「あー、天谷、寝る時ぐらいは眼鏡外せよ」  照れたように小宮が言う。  小宮に言われるままに、天谷は眼鏡を外し、手を伸ばして眼鏡をサイドボードに置いた。  小宮は眼鏡を外した天谷の顔を見てため息をつく。 「お前って、やっぱり綺麗な顔してんな。お前が前髪伸ばしてんのって、もしかしてその顔隠すためなん?」  小宮がそう言うと、天谷は口をポカンと開けた。 「からかうなよ。母親には気持ちの悪い顔だって言われてるけど。前髪、ただ切るのが面倒なだけ」 『気持ち悪いわ。お前の顔。見ていると吐き気がする。私を見ないで頂戴。……なによ、その目は、汚らわしいものでも見るような目で私を見ないで頂戴。汚らわしいのはお前のほうなのに』  天谷の頭の中にこんな台詞が浮かんだ。  天谷はそれを打ち消すように目の前の小宮の唇の動きに注目する。 「はぁー、お前の顔が気持ち悪いって、何それ、俺はそうは思わんけど。つか、前髪、ただ伸ばしてるだけかよ。俺はてっきり……」  そう言って小宮は額に手を当てて、そして、うん、と一人納得したように頷いた。  小宮は「なぁ」と、天井に視線をさ迷わせながら天谷に呼びかける。  天谷が小宮の顔を見ながら、「なに?」と言うと、小宮は、唐突に「俺は好きだよ、お前の顔」と言った。  小宮のその台詞に天谷は目を丸くした。 「好きとか、初めて言われた」  天谷の声は本人も気付かないくらいに僅かに震えている。  小宮は天井の一点を見つめて、「そうか」と静かに言った。 「あの、俺、もう一人で大丈夫だから、えっと」  布団をぎゅっと握りしめて天谷は言う。  小宮は視線を天谷に向けて、「あ、ああ。あの、あとちょっと話しても大丈夫? すぐ終わる話なんだけど。あ、話し、苦手なんだったよな。えっと、無理にとは言わないから」と、慌てて言う。 「あ、話し……何?」  布団を捲り起き上がろうとする天谷を小宮は制した。 「そのまま聞いてくれたらいいから」 「うん」 「あのさ、天谷は、その、人と話すの苦手なんだよな。なのに昨日話しかけて来たじゃん。それはやっぱりホームルームでの事怒ってたから?」  聞かれて天谷は首を振る。 「昨日は、怒ったとかじゃなくて、理由が知りたくて。君がホームルームであんな事言って、それを、何でって思ったから、それだけで」 「そうだったんだ。あ、理由、だよな、知りたいよなぁ。えーっと、昨日のアレなんだけど、こんなこと言うのもなんだけど、俺があんなことした理由ってのが、それが、上手く話せなくて、でも……俺……」  小宮の声は途中で小さくなっていた。  天谷は「何?」と聞き返す。  小宮はじれったそうに、「だから!」と声を大きくして「悪かったよ」と言った。 「え」 「ごめん」 「え、あの、君の話って、もしかして、俺にごめんって、それだけ?」 「そうだよ。なんだよ、他に何か欲しいのか?」 「いや、違うけど。良かったの? 俺が君の名前覚えるまで謝らないんじゃなかったっけ?」  天谷に言われて小宮が、うっ、と息を詰まらせた。 「お前、結構意地悪だな」  小宮が苦い顔をすると、天谷は潤んだ目を瞬かせた。 「そう? 意地悪……。初めて言われた」 「ごめん、悪口じゃないんだ」 「別に言われて嫌じゃなかったよ、こみや」  名前を呼ばれて小宮はハッとした顔をする。 「こみや、名前、覚えたからな」  天谷の口角が上がる。  小宮は、「ああ」と、照れくさそうに笑って天谷の髪を撫でた。 「髪、何で撫でるの?」  そう聞く天谷は嫌がるでもなく髪を撫でられている。 「知るかよ」  小宮の顔は赤かった。 「こみや」 「ん?」 「文化祭、頑張ろうな」 「は、お前、文化祭の出し物、やる気満々か?」 「へ? 俺、何か変なこと言ってる?」 「言ってるよ、熱でもあるんじゃねーの?」 「熱、あるよ」 「だったな。俺、もう行くわ。ちゃんと寝ろよ、天谷。またな」 「うん、こみや」

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