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第42話 天谷、日下部、小宮の高校時代10p

 小宮は立ち上がるとベッドのカーテンを引いた。 (天谷、面白い奴)  小宮はニヤリと笑った。  保健室の扉が、カラリと音を鳴らして開いた。  小宮は扉の方を向く。  入って来た男子生徒と小宮の目が合う。 「お、小宮か」 「日下部」  入って来たのは小宮の悪友、日下部光平だった。  日下部は一組で小宮とはクラスが違った。  しかし二人は中学からの仲だ。 「日下部、保健室に何用? 先生ならいないぜ」 「ん、貧血で怠いから一限目サボろうと思ってさ。小宮こそ、保健室に何用だよ」 「俺は野暮用」  そう言って小宮はカーテンの閉じたベッドを指さす。 「なに? 逢引でもしてたのか」 「バカ言うなよ。お前じゃあるまいし。あー、保健室で一限目サボりかぁ、その手もあったな」 「ははっ、サボりは小宮の常套手段なのに抜けてるぞ」 「今度からはサボる事にするよ。今日は真面目に授業を受けるわ。俺、行くから、日下部、静かにな」  言われて日下部はカーテンの閉じたベッドに目をやり、「ああ、重病人か?」と言った。 「まあまあの病人だよ。寝かせてやりたいんだ」 「了解」  小宮は日下部にじゃあな、と言うと保健室を出て行った。  残された日下部は空いているベッドのカーテンを閉めてベッドに横になりイヤフォンを耳に差し込んでスマートフォンで音楽を聴いた。  と、隣のベッドから「うんっ……」と呻く声が聞こえた。  日下部はスマートフォンを操作して音量を落とす。  しばらくすると、隣から小さな寝息が漏れた。  日下部はその寝息を聞いてふっと笑って目を閉じた。  始業を告げるチャイムが響く。  今日が静かに始まる。  文化祭当日。  二年六組は賑わっていた。 「いやあ、大成功ね。女装カフェ」  委員長は満足そうに客の入った教室を見回して言った。  小宮は委員長の隣でピンク色のセーラー服の裾をひらひらさせながら、「だな、俺のセーラー服姿に客は皆いちころだい!」とふざけている。 「小宮、それね。アンタのセーラー服姿にはがっかりだわ。似合わなさすぎる。アンタ、顔は良いのに女装が似合わないなんて、使えないわね」  委員長に言われて、小宮はしなをつくる。 「そんな、酷いわ委員長。私、傷付いちゃったんだわ。しくしく」 「げげ、止めてよ。はぁ、アンタに比べて天谷君、彼は完璧だわ」  そう言って委員会はテーブルで接客する天谷を、目を細めて見る。     化粧をして紺色のセーラー服を身に纏い、黒い長い髪のウィッグを付けた天谷は見惚れるほど綺麗だった。  ここにいるほとんどの客が、天谷目当ての客であることは、客の天谷を見る目でわかった。 「小宮、アンタのお手柄よ。天谷君のプロデュース、頑張ってくれてありがとう。小宮に言われた通りに私達も天谷君の衣装作り、頑張った甲斐があったわ。彼ったら、背が高いから衣装泣かせで……。まさか天谷君があんな美少女に化けるなんてね」  天谷の衣装からメイクまで、全てを小宮がうるさく注文を付けていた。 「こいつは目玉になるぜ」  と言う小宮の台詞に、初めの方こそ半信半疑のクラスメイト達だったが、完成した天谷の姿を見て、誰もが息を呑んだ。 「何これ、凄い。神ってる! めちゃくちゃ可愛い!」 「ほ、本当にあの天谷なのか? 今まで根暗なモブにしか見えて無かった」 「ヤバすぎる。女子にしか見えない」 「スーパーモデルみたいにスタイルいいし、女として勝てる気がしないわ」  大絶賛のクラスメイトの声を天谷はただぼんやりとした顔で聞いていた。

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