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第45話 天谷、日下部、小宮の高校時代13p

「なぁ、天谷、俺、ちょっとトイレ行ってくるからさ、お前、ここで待ってて。その間にどうするか考えて決めといてよ」  顔を上げない天谷に小宮はそう言って静かに背を向ける。 「あ、待って」  小宮の背中に慌てて手を伸ばす天谷だったが、小宮は天谷を振り返らなかった。  一人残された天谷はしばらく小宮の残像を追ってその場に立ち尽くしていたが、すれ違う人とぶつかると渡り廊下の端に移動してそこを自分の居場所に決めた。  天谷は体育館から校舎へと行き交う人達の足下ばかり見て小宮を待った。  体育館からは軽音楽部の奏でる演奏が流れてくる。  音楽と共に体育館から溢れ出る活気に溢れた人の声が逆に天谷を心細くさせる。  小宮が戻って来ない事も、その逆も、天谷には不安だった。 (あいつに何て言えば良いんだろう)  休憩時間を小宮と過ごすか否か、天谷には決められない。  誰かと一緒にいることなんて今まで無かった天谷には、誰かと一緒にいることを選ぶなんて出来なかった。 「どうしよう」  天谷は呟く。  天谷の表情は曇っていた。 (小宮と一緒にいてどうする? 一緒にいてどうしたら良いんだろう? 小宮はなんで俺なんかを誘ったのかな? 気まぐれ? 同情? そもそも小宮は俺なんかといて何の得があるんだ? 俺なんかといても小宮は楽しくないだろうに……)  天谷の頭の中を疑問の渦が湧く。 (小宮はどうして俺なんかに……)  保健室で話をした日以来、小宮は何かと天谷を構うようになった。  お昼を一緒にどうかと誘ったり、学校の帰り道に一緒に帰ろうとしたり、文化祭の準備の時は小宮は天谷の隣で文化祭の為の工作を一緒にしたりした。  何かあるたびに小宮は天谷と関わろうとしてきた。  天谷にはそんなことをする小宮の気持ちが理解できなかった。  渡り廊下の片隅で、天谷はゆっくりと目を閉じる。  そして、ある人から自分に向けられた言葉を思い返す。 『お前といると息が詰まるのよ』 (そう思う) 『つまらない子』 (そう思う) 『お前といると憂鬱になるわ』 (そうだよな……俺はやっぱり)  天谷は目を開く。 「え?」  天谷は目を開いて見た物にビクリとした。  天谷の目の前に、私服の見知らぬ男子二人が立っていたのだ。  二人はにやけた笑みを浮かべて天谷を眺めている。 (この二人、俺の女装姿がそんなに可笑しいか? まあ、自分でも可笑しいと思ってるけど)  天谷はそう思ったが、それにしても、こんな風にニヤニヤしながら見られたらいやな感じがすると、「あの、何ですか?」と尖った声で二人に向かって言った。  これでこの二人がいなくなってくれたら良いと天谷は期待したが、機嫌を悪くしている天谷を前にしても二人はにやけた表情を崩さずに、この場を立ち去らなかった。  そればかりか、二人で声を合わせて「君、一人?」と天谷に声をかけて来た。 「見ての通り一人ですけど」  天谷が怪訝な顔で答えると、彼らはにやけた顔をより一層にやけさせる。 「君、どこの学校の子?」  一人がそう言う。 「一人だったら、良かったら俺らと一緒に回らない?」  もう一人がそう言う。 「え、えっと……」  二人の態度に天谷は困った。 (こ、この二人は何なんだよ!) 「ちょっと、あれ見ろよ、天谷のやつ、ナンパされてんじゃん」 「マジだ。くくっ、あのナンパ男二人、可愛そうに」  通りかかった天谷のクラスメイト二人が可笑しそうに言って通り過ぎて行ったが、天谷の耳には届かなかった。

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