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第50話 天谷、日下部、小宮の高校時代18p
「ひっ!」
天谷は小さく悲鳴を上げると自分の事を間近かで見つめる男子生徒の顔を見た。
天谷の瞳は震えていた。
怯えた顔をしている天谷を男子生徒は困った表情をして見た。
「ビックリさせてゴメン。あの、俺は」
男子生徒は口を開いて言葉を出したが、天谷は彼の話を聞く気は無かった。
「出て行って下さい!」
男子生徒に向かって天谷は叫けぶ。
「いや、俺は」
「あなたと話すことは何も無いですから、この教室から出て行って下さい!」
天谷は悲鳴を上げる様にそう言った。
どこを歩いても知らない男に声をかけられて、しつこく誘われて、その度に逃げる事を繰り返して、天谷は疲れ切っていた。
くたくたの天谷は人通りの少ない北校舎三階へ向かい、文化祭に使われていないこの予備室に潜むことにした。
埃っぽい教室の窓を開いてその窓の下に天谷はしゃがみ込む。
天谷の瞼はゆっくりと落ちていった。
ふと、頬に何かが触れる感覚に天谷は目を覚ます。
すると、目の前に見知らぬ男子生徒がいたのだった。
天谷は目を凝らして相手を見てみた。
着ている制服からどうやら彼が同じ学校の生徒だということはわかった。
しかし、さっきまで知らない男達に追いかけ回されていた天谷は、同じ学校の生徒だからという理由で油断はしなかった。
「あなたが出て行かないならこっちが出て行きます」
そう言うと、天谷は素早く立ち上がり、この場を去ろうとした。
すると「待て!」と、男子生徒が天谷の腕を掴む。
「離せ!」
天谷は男子生徒の手を振り解こうとするが、彼はしっかり天谷の腕を掴んでいて離さない。
「落ち着いて良く聴けよ、俺は」
そう言う男子生徒の声には焦りが見えていた。
その焦りからか、天谷の腕を掴む彼の手に力が加わる。
「痛いっ、手を……離せっ」
天谷の悲痛な声に、男子生徒は手を離した。
その瞬間に、天谷は教室の扉の方へと走り出す。
「あ、こら待て!」
男子生徒が天谷を捕まえようと手を伸ばす。
彼は、天谷の背中からセーラー服を掴んだ。
天谷はいきなり掴まれたはずみで足をもつれさせる。
バランスを崩した天谷の体が真横に傾いた。
「あぶねー!」
倒れそうな天谷を支えようと男子生徒は掴んでいる天谷のセーラー服を咄嗟に引っ張ったが、逆に掴んでいるセーラー服に引っ張られて、倒れ込む天谷と一緒に床に倒れた。
天谷は床に打ち付けた体の痛みにうめき声を上げた後、自分の置かれている状況を目の当たりにして混乱した。
男子生徒が天谷の体に覆いかぶっさっている。
そして、彼の唇は天谷の頬に触れていた。
天谷は頭が揺れるのと、体が熱くなるのを感じた。
「なっ、何……して……」
天谷の唇が震える。
男子生徒は慌てて顔を上げると青ざめた顔をして天谷を見下ろした。
「ごごご、ごめん! これは違くて! アクシデントで!」
男子生徒は必死にそう言うが、誰がどう見ても彼が天谷を押し倒している様にしか見えない絵だった。
「あんた、何考えてるんだよ、こんなっ……」
天谷の瞳から涙が零れ出す。
天谷は腕でそれを隠した。
「ごめん、大丈夫?」
男子生徒は声を落として言った。
「見るな。泣いてるとこ、見られたくない……からっ……」
天谷がそう言うと彼はまた謝る。
「もっ、離して……お願いだからっ」
そう天谷に言われて男子生徒は思い出したかのように慌てて天谷の体から離れようとした。
男子生徒の体が天谷から離れた、その瞬間、天谷は素早く起き上がると、「ただで済むと思うなよ!」と叫びながら起き上がった勢いのまま、男子生徒に頭突きを喰らわせた。
男子生徒は、「うっ」と言うと、頭を抱えて蹲る。
その隙に天谷は教室の扉へ走る。
「地獄に落ちろ、この変態!」
そう捨て台詞を残して天谷は教室から走り去った。
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