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第51話 天谷、日下部、小宮の高校時代19p

「くそっ、痛てぇ。あの女、とんだじゃじゃ馬だぜ」  日下部は額を抑えながらふらふらと立ち上がった。  日下部は予備室から出ると、少女の姿を探した。 「いた!」  日下部の目に廊下を走る少女の姿が見えた。  少女は廊下を並んで歩いている三人の生徒の一人にすれ違いざまにぶつかって倒れた。  日下部は舌打ちをすると少女の方へ走る。  少女を助け起こそうとしている生徒は日下部のクラスメイトで友人だった。 「おい、山宮!」  日下部は友人の名を叫ぶ。  日下部に呼ばれた山宮という男子生徒が、「え?」と言って走って近づいてくる日下部の方を見る。  少女は自力で立ち上がると山宮と日下部を焦った様子で交互に見る。 「山宮、その女を捕まえろ!」  少女は日下部の台詞にビクリと反応して、そして走り出した。 「追え、山宮!」  日下部の声に、山宮は「了解!」と言うと少女を追いかけた。  山宮と一緒にいた他の二人も山宮の後に続く。  山宮達に追いついた日下部に、山宮は「日下部、あの女、何者だよ?」と走りながら聞いた。 「小宮の彼女だよ」  日下部は答えた。  小宮は山宮とも友人である。 「はぁ? 日下部、なんで小宮の彼女を追いかけてるんだよ!」  訳がわからないという顔をしている山宮に日下部は、「あの女が逃げるからだ!」と怒鳴る。 「逃げ出すようなこと、なんかしたのかよ?」  ふざけて聞いた山宮の台詞に日下部は苦い顔をする。  日下部には心当たりなら大いにあった。 (アクシデントとは言え、友達の彼女にあんな風にキスとか、ありえねぇ。小宮に合わせる顔がねぇな)  日下部はため息を吐いた。  日下部のパンツのポケットでスマートフォンが着信を告げて震える。  日下部はポケットに手を突っ込むと相手を確かめずにスマートフォンに耳を当てる。 『日下部、今、何やってるの?』  三枝の声だった。 「三枝か、今? 山宮と走ってる」 『山宮と? 何それ? あっ、あのね、さっき見せてもらった写真の子のことなんだけど、あの子、六組の……』 「あいつなら見つけた。三枝、俺、今取り込み中だから電話切るわ。また後でかけ直すから、じゃあ」 『え、あっ、ちょ……』  三枝の話を途中で遮り、日下部は電話を切ってスマートフォンをパンツのポケットにねじ込んだ。  日下部は前を走る少女を見た。  少女のスピードは落ちて来ている。  そして、この先は行き止まりだった。 (しめた、袋の鼠だ)  日下部の口角が上がる。  後ろは壁、前には男四人が立ちはだかり、少女は正に袋の鼠だった。  少女は荒い息をして、日下部を睨みつけている。  日下部は少女の方へ一歩足を踏み出す。  少女は後退り、壁に背中を付けた。 「あんた、落ち着けよっ……俺はっ……」  日下部は息が苦しくて上手く言葉が出てこなかった。  少女は凍りついた表情を浮かべて今にも悲鳴を上げそうだ。 「落ち着いてって! げほっ!……俺は、小宮の友人だ!」  日下部が咳き込みながらそう言うと、少女は憑き物でも落ちた様な顔をしてその場に足を崩した。 「小宮の友達? 本当に?」  少女が不安気に聞いた。  日下部は頷いて、「ああ、本当だよ。小宮にあんたを探すように頼まれたんでずっとあんたを探してたんだよ」と言った。 「な、なんで早くそれを言わないんだよ」 「いや、だって、それは、あんたが俺の話に聞く耳持たなかったんだろ」 「だって、怖かった、からっ」 「ううっ……悪かったよ。ほら、立てるか」  日下部は床に座り込んでいる少女に手を差し伸べる。  少女は遠慮がちに手を伸ばし日下部の手を取った。  立ち上がった少女に、「あんた、名前は?」と日下部は聞く。  少女は「天谷……天谷雨喬」と静かに答えた。

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