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第52話 天谷、日下部、小宮の高校時代20p
「お前ら、付き合わせて悪かったな」
日下部は山宮達に頭を下げて礼を言った。
「どうってことねーよ。じゃあ、小宮によろしく言っといてくれよな」
山宮がそう言うと、日下部は「ああ、じゃあな」と言って天谷を連れてこの場を去って行った。
残された山宮のスマートフォンに着信が入る。
着信の相手は三枝だった。
山宮は電話に出る。
「三枝か、何だ?」
『山宮、そこに日下部いる?』
「ん、日下部に用事か? さっきまでいたけど、もういないよ。小宮の彼女連れて行っちまったよ。大変だったんだぜ、俺達、日下部に付き合わされて逃げる小宮の彼女を追いかけてさ」
『何よそれ。いや、それよりも、その小宮の彼女のことなんだけど、その子、どうも彼女じゃないらしくて』
「は、どういうことだよ」
山宮は眉をひそめる。
山宮の様子に、山宮の連れの二人が電話の三枝の声に耳を澄ませる。
『いや、あの子、それがさ、彼女じゃなくて彼氏らしいのよ』
「はぁ?」
『六組の女装カフェの子なんだって。たまたま六組の子に聞いてさ。驚いたよ、あの子、あれで男の子よ』
三枝が言うと、山宮は息を呑んだ。
「マジかよ、あれが男? 信じらんねー」
話を聞いていた他の二人も啞然とする。
「その男が小宮の彼女ってどういうことだよ?」
山宮に訊かれて三枝は『知らないわよ、どうせ小宮がふざけたんでしょ』と答えた。
「いや、あれとなら案外本当に付き合ってるんじゃねーの?」
山宮がふざけてそう言うと、山宮の連れの生徒の一人が「確かにあれなら抱けるか」とにやけて言う。
もう一人の生徒が、「お前、マジかよ。なら、あの彼氏にお願いしてみたら」と笑って冷やかす。
「女だったら是非お願いしたいよ」
一人がそう言うと、山宮は「ははっ、女だったらな。日下部のやつも案外あの手の女がタイプだったりしてな。日下部のやつ彼女……いや、彼氏か、彼氏に随分優しくしてたし」と言って笑った。
それを聞いていた三枝が『あんた達、ふざけた事言わないでよ!』と怒鳴って電話を切った。
「何だよ、三枝のやつ、冗談が通用しない奴だな」
山宮はスマートフォンに向かって舌打ちをする。
「それにしても、あの子が男とはビックリだぜ」
連れの生徒の一人の台詞に山宮は頷いた。
「だな、日下部のやつも女と思ってやがったよな。あいつ、気付くかな」
そう言って、山宮は日下部と天谷が去って行った方へ目を向けた。
日下部と天谷は北校舎一階に移動していた。
二人は交わす言葉も無く並んで長い廊下を歩いている。
廊下はとても静かだった。
演劇部の公演の時間でもあるし、ほとんどの人が文化祭のメインとなる南校舎と東校舎、西の校庭の方へ集まっているのだろう、今、ここにいるのは日下部と天谷の二人だけだ。
日下部は並んで歩く天谷の横顔を盗み見る。
天谷は日下部より少しだけ身長が高いので日下部は少し見上げる様に天谷を見た。
天谷の人形の様に綺麗な肌が窓からの光を浴びてうっすらと輝いて見えて日下部は目を細めた。
天谷はこうして黙っていると、天谷は本当によくできた人形の様だった。
誰も触れた事の無い、ショーケースに飾られた真新しい人形。
欲しくても手の届かない人形。
そんな人形の顔に落ちるまつ毛の影を日下部は息を殺して見つめた。
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