虹蛇作者: 鬼兩

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第6話 天谷、日下部、小宮の高校時代21p

「あ、そうだ、あんたを見つけた事、小宮に連絡して伝えないと」  沈黙に耐えかねた日下部はそう言って立ち止まりスマートフォンを操作する。  天谷は何も言わずにスマートフォンを操る日下部の指先に視線を落としていた。  天谷の視線に気が付いた日下部が顔を上げて天谷を見ると、天谷は暗い表情を浮かべていた。 「小宮に連絡されんの嫌?」 「えっ?」 「小宮と喧嘩でもしたか?」  訊かれて天谷の瞳は揺れた。 「別に、喧嘩とかじゃなくて」 「……まぁ、小宮とあんたの間に何があったか知らないけど、小宮はあんたを心配してるから。会ってちゃんと話をしろよ」  日下部は優しく笑う。  その笑顔に天谷は見入ったように日下部から視線を外さない。  天谷は人が自分に笑いかける事が珍しいとでも言う様に不思議そうに日下部を見る。 「な、何? 俺の顔に何かついてる?」  日下部が落ち着きのない様子でそう訊くと、天谷は慌てて日下部から目を逸らした。 「ううん、ごめん。あの、えっと、小宮と……ちゃんと話すから」  顔を赤らめて、日下部を見ていたことを恥ずかしそうにしている天谷に日下部はくすぐったい様な感覚が湧く。  日下部は何となくこのまま天谷と二人きりでいたらいけない気がした。  日下部のスマートフォンを握る手に力が込もる。 「そう、じゃあ……小宮に連絡するな」  日下部がそう言うと、天谷は「うん」と言った。  日下部はグループチャットで小宮に連絡をする。  その間、天谷は窓の外を見ていた。  ガラスの向こうには文化祭を楽しんでいる人達の姿が映っている。  目に映る行き交う他人の笑顔を天谷は暗い眼差しで追う。  ふと、廊下の方へ天谷は顔を向けた。  そして、辺りを忙しく見回す。  落ち着かない様子の天谷に、日下部が「どうした、やっぱり小宮と会いたくないのか?」 と尋ねた。  訊かれて天谷は首を振り、「そうじゃ無くって、何か、泣き声が聴こえないか?」と言う。 「え、泣き声?」 「うん、泣き声。あ、あっちの方から」  そう言うと、天谷は廊下を一人歩き出した。  日下部が慌てて天谷の後に続く。  廊下の角を曲がり、真っすぐに進んで行くと、日下部にもその泣き声が聞こえた。  それは子供の泣き声だった。  日下部と天谷は泣き声を頼りに廊下を進む。  泣き声に導かれ、北校舎と南校舎を繋ぐ渡り廊下まで二人が来ると、小さな女の子が「うぇぇーん!」と声を上げてそこにしゃがみ込んでいた。 「あの子だな」  日下部が言うと、天谷が「うん」と言った。 「迷子かな」と日下部。  天谷は頷いて「多分」と言う。  日下部が女の子に近付き、「大丈夫? お母さんとはぐれたか?」と声を掛ける。  女の子は顔を上げて日下部を見て、そして大声で泣き出した。 「大丈夫だから、怖くないから泣かないで」  日下部が優しくそう言うが、女の子は泣き止まない。 (今日は厄日か? あの女の次は迷子の女の子かよ、もう、どうすりゃいいんだよ)  日下部は泣き止まない女の子をインフォメーションに連れて行くことに決めた。  文化祭の為に南校舎のロビーに特設されたインフォメーションでは迷子の預かりもしているのだった。  日下部は女の子を抱き上げようとする。  すると、女の子は激しく泣き叫び、暴れ出した。 「うわぁん、嫌だ! ママーっ!」 「あっ、こら、暴れるな! 大丈夫だからっ!」  日下部の言葉は女の子には少しも響かない。  女の子は涙をぽろぽろ出して泣きわめく。  日下部はどうしたら良いのかとおろおろした。 「泣くな!」  良く通る声がした。  その声に驚いて、日下部と女の子が声のする方を見る。

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