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第60話 スリーピーホロウ3p

 二人は向かい合って座り、課題に取り組んだ。  天谷も日下部も課題に集中していてずっと無言で鉛筆を動かす手を止めない。  部屋には鉛筆が紙の上を走る音だけが響く。  天谷がうーん、と伸びをする。  そして、天谷は何となく日下部の方を見た。 (日下部、あんなに集中して何を描いているんだろうな)  日下部はスケッチブックをテーブルの端に六十度に立てかけて絵を描いていたので天谷の方からは日下部が何を描いているのか見ることが出来なかった。  黙って鉛筆を走らせる日下部の眉間には皺が寄っている。  天谷はそれを見てふっ、と笑う。 (日下部のやつ、あんなに眉間に皺を寄せちゃって、あれじゃあ、跡が付きそう。よし、俺ももうひと頑張りしよう)  鉛筆を握り直し、天谷は紙の上に勢いよく線を描いた。  時間を忘れたように二人は課題を進めた。  部屋の中が薄暗くなって来たことにも気付かずに二人は夢中で描いていた。  外から響く雨音に日下部がハッとした様に顔を上げた。 「雨だ」  そう言って日下部が窓を見る。  降り出した雨が窓ガラスを叩いていた。  天谷もスケッチブックを置いて窓を見る。 「今日、雨降るんだっけ?」  天谷が訊く。 「ああ、これから本降りだってよ」 「そうなんだ、知らなかった。傘持ってこなかったな」 「傘って、お前、今日は帰る気でいたのか?」 「え?」 「いや、俺はてっきりお前が泊っていくつもりかと思ってて」  日下部は何げないようにそう言ったが、天谷は日下部の台詞に慌てた。 「とととっ、泊まるとか、そんなこと、考えて無いから! 描いたら帰るから!」 「お前、何を慌ててるんだよ?」  日下部に言われて、天谷は赤くなっている顔を隠すように俯いて膝の上のスケッチブックを見る。 「慌ててなんか無いから! 普通だから!」  むきになって言う天谷に日下部が「慌ててるじゃん。お前、今日、何か様子がおかしいぜ、何かあるの?」と訊く。 「無い! 何にもないから!」 「ふぅーん、まぁ良いや。俺、コーヒー入れてくるわ。天谷も飲むだろ?」 「……うん」 「よし、待ってろ」  日下部は立ち上がると薄暗い部屋に明かりを灯し、台所に移動した。  天谷は日下部が台所に立つ間、丸くなった鉛筆をカッターナイフで尖らせていた。  天谷は筆圧が高いので鉛筆は直ぐに丸くなってしまうのだ。  三本くらい削ってから、日下部がコーヒーの良い香りと共に戻って来た。  日下部はテーブルの上にある自分の閉じられたスケッチブックを片手に持って床の上にどかし、代わりに手に持ったままでいた盆をテーブルの上に置いた。 「天谷はブラックで良かったよな」  天谷が、「うん」と言うと、日下部は天谷の前に大き目のマグカップを置く。  そして、ミルクがたっぷりと入ったコーヒーの入っている、やはり大き目のマグカップを自分が座る側の方へ置いた。 「後、これ、簡単なやつだけどサンドイッチ作ったから、良かったら食べて」  日下部は盆から白い皿に乗ったサンドイッチを出すと、それぞれのマグカップの横に置く。  天谷はそれを見る。  ハムとレタスとチーズ、それに薄くスライスされた玉ねぎがこんがり焼けたパンに挟まったサンドイッチ。 「美味そうだ」  ちょうどお腹がすいてきていた天谷は素直に喜んだ。  コーヒーの冷めないうちに、二人は休憩に入ることにした。

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