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第67話 スリーピーホロウ9p
騎士の手に吊るされた二人の姿に日下部は絶望感で息が止まりそうになる。
騎士の手からぶら下がっているのは日下部の中学の時の同級生、綾弓蝶と日下部の恋人である天谷雨喬であった。
雷鳴がとどろく。
「さあ、この二人から一人選べ。選んだ方だけ助けてやる」
騎士がそう言う。
「助けてちょうだい、日下部君」
綾がそう言う。
天谷は口を閉ざしている。
二人のうち、助かるのは一人だけ。
そうは言われても……
「日下部君、助けて。私を選んで」
綾が口をパクパクさせて言う。
そう言われても……助けてと言われても、綾には首から下が存在していない。
雷の光が騎士と綾、天谷を照らした。
雷光で天谷の青白い顔が浮かび上がる。
照らされた天谷の姿に日下部の心は砕かれた。
天谷もまた首から下は失われている。
「さあ、選べ」
「日下部君、私を選んで」
天谷は何も言わない。
黒煙が日下部を包む。
「選んで」
「選んで」
綾の言葉がまとわりつく。
天谷の姿は黒煙に飲まれ、もう見えない。
選んだとして、どうなる?
二人はもう首だけたというのに。
「ワ……タ……シ……ヲ……エ……ラ……ン……デ……」
綾の口がそう動く。
天谷は、天谷はどうしたのだろう、天谷は、もう……この二人は、もう、すでに。
日下部は絶叫した。
「日下部、日下部。大丈夫か、日下部!」
天谷は日下部の体を思い切り揺さぶっていた。
天谷がベッドに向かうと、日下部は悪い夢でも見ているのか、酷くうなされていた。
天谷は、日下部を今すぐ起こさないといけないという思いに駆られ、夢中で日下部の体を揺さぶりながら声をかけた。
「日下部、おい、日下部ってば!」
「うう……っ」
日下部が苦痛の声を上げて目を覚ます。
天谷は日下部の目が覚めたことにホッとして、日下部の顔を覗き込んだ。
「天谷」
日下部がぼんやりと天谷の名前を呼ぶ。
「そうだよ、日下部。大丈夫か、凄いうなされてたけど、怖い夢でも見た?」
訊かれて日下部は、汗の浮かんだ顔をゆがませて「……まぁな」と、答える。
日下部は、上半身だけ起き上がり「心配させたか?」と天谷に笑って見せた。
しかし、日下部の顔は真っ青だった。
そればかりか、日下部の肩は小さく震えていた。
こんな日下部の姿を見たことが無かった天谷は戸惑う。
天谷が返事に困っているうちに日下部がまた話しかけて来た。
「天谷、悪かったな。起こしちまった?」
「ううん、眠れなくって、起きてたから」
「そうか、先に寝ちまって悪かったな」
そう言って、日下部は天谷の髪を撫でた。
「お前、髪、濡れてんじゃん。風呂から上がってからちゃんと拭かなかったのかよ。風邪ひくぞ」
天谷の髪を撫でながら日下部は言う。
「うん、ちゃんと拭いて、ちゃんと寝るから」
天谷は髪を撫でる日下部の手から逃れようとした、けれど、日下部の顔を見ていたら、何だかそれが出来なくなってしまった。
今、日下部から離れたらいけない様な気がして、そう思ったら天谷の口は勝手に言葉を紡いでいた。
「日下部、一緒に寝る?」
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