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第74話 スリーピーホロウ16p

 日下部はベッドに座り、横で眠っている天谷の顔を見降ろしながら自分の首の傷を触っていた。  傷は、さっき天谷に付けられたものだった。  天谷の指の爪が日下部の首を引っ掻いたのだ。 「首なし騎士が今夜、俺の首を狙って来る……大した伝説だったぜ」  日下部は独り言を呟くと、天谷の額を指先ではじいた。  天谷はピクリと動いたが、目は覚まさない。  日下部は天谷が眠るまで、ずっと天谷を抱きしめていた。  前世は魚らしい天谷の体は初めのうちは冷たかったが、抱きしめているうちに温かくなっていった。  溶けそうなくらい熱く感じる天谷の体に身を埋めて、時折、天谷から漏れる吐息を聞いていたら、日下部は何だかおかしくなりそうな気がして、何度、その体から腕を離しそうになったかわからなかった。  天谷が眠ってから、やっとその体を離したのだった。  天谷が眠るまで彼を離そうとしなかったのは日下部の意地であった。 (バカな意地張って疲れたな。それにしても、今日の天谷には飽きなかったな)  日下部は、天谷との一日のことを思い出して、くくっ、と笑う。 (あんなに俺のことを意識しちゃって)  日下部は、天谷が自分のことを意識していたことを初めから気付いていた。  その理由も、日下部は何となくわかっている。  大学の屋上の階段の踊り場での一件以来、天谷は日下部の部屋に一度も来なくなった。  きっと、自分が冗談で言ったことを気にしているに違えないと日下部はそう思った。  ここ最近の天谷の日下部に対する態度は時々よそよそしくて、どこか日下部を試すようで。  友人から合コンの人数合わせに付き合うように天谷の前で誘われた時、天谷は「言ってこれば」と、平気そうな顔をして言ったものだった。  ならば、と友人の誘いを受けた日下部だったが、今思えば断るべきだったと今更、日下部は思った。   (それにしても、昨日、告白されたこと、天谷が知ってたなんてな。どこかで見てたのか?)  告白は断っていた。  日下部は天谷の顔を見て、ため息をつく。 (つうか、こいつ、高校の時の話まで持ち出して来て)  確かに高校の頃、日下部は何人かの女子と付き合っていた。  しかし、どの相手とも長く続くことは無かった。  その理由から日下部はずっと目を逸らして来ている。  天谷の顔を見る日下部の目に、天谷の涙の後が止まった。 (何をしても、何を言っても、天谷を不安にさせちまうな、俺は)  日下部は天谷の頬に触れる。  指先で涙の後を辿ってみると天谷が身じろぎした。 「泣かせてごめんな」  そう言ってみても天谷から返事は返ってこない。  優しくしたいのについ、意地悪をしてしまう自分を日下部は恨めしく思う。  もしも、あのまま天谷を抱いていたなら、泣かずにいてくれたのだろうか?  まどろんだ頭で考えてみても、答えは見つからない。 「日下部、ばかっ……」  天谷が寝言を言う。 「そうだな。お前の言う通りだ」  日下部は布団にもぐると、少し迷ってから天谷の手を握った。  握り返された手をそのままに、日下部は目を閉じる。  ほんのりと温かい天谷の手の感触が気持ちよくて、心地よくて、それが嬉しくて、日下部は笑った。  終

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