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第76話 天谷と不二崎の雨の日の過ごし方2p
一人になった天谷は紫陽花の所へ戻り、じっくりと、その青を見る。
この間も、こうして紫陽花に目を奪われた。
その時、一緒にいた不二崎が言ったのだ。
「雨喬、紫陽花、好きなの?」と。
うん、と答えた天谷に、不二崎は「紫陽花の綺麗な神社があるんだけど、二人で行かない?」と言った。
不二崎の台詞に、天谷は自然に、「うん」と言っていた。
それで、天谷は日曜日に不二崎と出かけることになったのだった。
天谷は紫陽花の花を指先で突いてみる。
紫陽花から雨の雫が落ちる。
(日曜日、晴れると良いな)
天谷は青い空を見上げ思った。
日曜日はあいにくの天気となった。
天谷は駅を出て、青いビニール傘をさした。
そして、待ち合わせ場所の駅の直ぐ近くにある、誰だか分からない外国人の男性の銅像の前で不二崎を待った。
天谷は、待ち合わせの十五分前に到着していた。
天谷は落ち着かない様子で腕時計を眺める。
(誰かと待ち合わせ何か久しぶりだから、とりあえず早めに来てみたけど、は、早すぎた? どうしょう。先に着いてること、史郎に連絡した方が良いのかな。それとも、待ち合わせ時間が来るまで何もせずに待ってるべきなのか。そもそも、待ち合わせ場所は本当にここで合っているんだろうか)
天谷はキョロキョロと辺りを見回す。
この街には初めて来る。
待ち合わせ場所は何度も確認したが、天谷は不安を隠せなかった。
天谷が一人、頭を悩ませていると、ショルダーバッグのポケットでスマートフォンが震えた。
天谷は、不二崎からの連絡か、と、慌ててスマートフォンを開く。
メールが一通。
日下部からだった。
『お前が誰かと出かけるとか、雨でも降るんじゃねーかと思ったら、マジに降ったわ』
と、メールにあって、天谷は、ふんっ、と鼻を鳴らす。
(日下部のやつ、わざわざ嫌味を言う為にメールをしてくるとか、どういう性格の悪さだよ。絶対に返信なんかするか)
天谷はスマートフォンを乱暴にバッグに突っ込む。
天谷が日下部のメールに、頭から湯気を出していると、突然、後ろから肩を軽くたたかれた。
驚いて振り返ると、そこには透明のビニール傘をさした不二崎史郎がいた。
「雨喬、おはよう。待たせたかな?」
不二崎がにっこりと笑って言う。
天谷はブンブン首を振って「全然待って無いよ。俺も今来たところだから」と言った。
「それなら良かった。じゃあ、早速だけど、行こうか」
「うん」
天谷と不二崎は並んで歩き出した。
不二崎は、少女のような顔に相応しく小さくて、天谷と並ぶと身長差がある。
並んで歩く天谷と不二崎の傘が階段の段差のように重なった。
「雨、降っちゃったね」
不二崎が言う。
「うん、でも、小雨で良かったな」
天谷がそう言うと、不二崎は「俺は雨、嫌いじゃないんだよね。だから、これくらいの雨なら出かけるの、全然嫌じゃないんだけど、雨喬は大丈夫?」と言う。
「大丈夫だよ。俺も、雨、嫌いじゃないよ」
「そう、良かった」
不二崎は天谷を見上げてホッとした顔をする。
天谷の方もホッとしていた。
不二崎が、雨の中しぶしぶ来たのではないらしいことがわかって良かったと天谷は笑顔になる。
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