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第77話 天谷と不二崎の雨の日の過ごし方3p

「雨喬、神社まで、十五分くらい歩くから。あ、あそこのアーケードの中に入っちゃおう。近道らしいから」  そう言って不二崎が指をさす。  不二崎の指の先を辿ると、古びたアーケードが見えた。  都会を感じさせるこの街並みに、そのアーケードは浮いて見える。  二人は足を速めてアーケードへ入った。  畳んだ傘から水滴を垂らしつつ、二人はアーケードの中を歩く。  アーケードの中は雨が降っているからなのか、まだ午前だからなのか、それとも、古びたアーケードならではだからなのか、人通りはまばらであった。  しかし、シャッターの下りている店は少なく、これから人は増えるのかも知れなかった。 「はぁーっ、ここ、雰囲気の良いアーケードだな」  天谷が興奮気味に言うと、不二崎が、得たりとしたようにニヤリと笑う。 「だろ。雨喬、こういう所、好きでしょ」 「うん、好き。こういう古い商店街とか凄く落ち着く」 「だろうと思った。俺も好きだよ、こういう雰囲気」  不二崎は通りがかりに金物屋を横目でゆっくりと見ている。  不二崎の視線を追って天谷が金物屋を見ると、何を切るのか知れない大きな包丁が店の奥に置いてあるのが見えた。  二人はアーケードの中を色々な店を見ながらのんびりと歩く。  八百屋に百円ショップ、喫茶店に洋品店。  どの店も看板がカラフルだったり、売っている物が珍しかったり、どこか特徴的で見ていて飽きないな、と天谷は思う。  不二崎の方も、同じらしく、実に興味深そうに店を眺めている。 「あっ、古本屋さんがある」  天谷が足を止める。  天谷が目を止めた古本屋は実に古い店構えだった。  木の板に書かれた看板の文字は年季が入り、黒い筆文字が薄くなっている。  金色の文字で店名の入ったガラスドアから店の中が覗けた。  背の高い木製の本棚に本がぎっしりと詰まっている。  そして、その本棚の前に雑然と本が積んである。  赤や青、緑の布製の表紙の高そうな物から単行本、絵本まで、色々な本が置かれていた。  目を輝かせて店の中を見ている天谷に、不二崎が「神社の帰りに寄ってみようか」と訊く。  その提案は天谷には嬉しかった。  しかし、不二崎に気を使わせているのでは、と天谷は不安になる。 「いいの?」 「良いよ、俺もこの店、気になるし。雨喬さえ良ければ是非」  そう笑顔で答える不二崎。 (史郎とは趣味が合うから多分、無理している訳じゃないよな)  天谷はそう自分に言い聞かせる。 「じゃあ、後で来ようか?」  天谷が一応、遠慮がちにそう言うと、不二崎は、「うん」と花が咲いたような笑顔を浮かべて頷いた。  その笑顔に、天谷の心配は吹き飛ぶ。  不二崎の笑顔は天谷をいつも安心させる。  それから、二人は、お互いが今、読んでいる小説の話で盛り上がった。  天谷も不二崎も、今はホラー小説に夢中なのである。  不二崎が今読んでいる小説がかなり怖いらしく、今度、それを天谷に貸してくれると言う。  天谷は今からそれが楽しみで仕方がない。    小説の話なら、二人はいつまででもしていられそうだ。

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