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第78話 天谷と不二崎の雨の日の過ごし方4p
こうして、話に花を咲かせているうちに長いアーケードが終り、アーケードから出てしばらく歩くと景色に木々が増え始めた。
雨のせいか、木々の匂いが濃く感じるようで、天谷は大きく息を吸う。
横でそれを見ていた不二崎が真似をして深呼吸する。
「なんか、空気美味しいね」
不二崎の台詞に、確かに、と天谷は頷く。
「空気が美味いとか、久しぶりに思った」
不二崎が言う。
「だな。普段どんだけマズい空気吸ってんだっていうな」
笑う天谷に、不二崎は、その通りだと傘を揺らせて笑う。
こんなにどうでもいい会話で他人と笑い合えるなんて、天谷には不思議な感じだった。
「あっ、ほら、見えた。あの神社だよ」
不二崎に言われると、直ぐ先に赤い鳥居のある神社が見えた。
二人は神社へ向かって水たまりの多い道を歩く。
途中、車が水たまりを跳ねて天谷が濡れそうになると、不二崎がさり気なく盾になってくれた。
不二崎は見かけによらず、男らしいやつなのであった。
神社の目の前まで来ると、天谷は感嘆の声を漏らした。
鳥居を抜けて直ぐにある神社へと続く結構な段数の石の階段は所々、苔が生えている。
神社の方を見上げると、神社の中に木々が生い茂っているのが見える。
まるで小さな森だ。
「行こう、雨喬。階段、滑らないように気を付けて」
「うん」
二人は、手すりにつかまりながら、一段一段踏みしめるように階段を上る。
階段の横にある溝を、雨水が勢いよく流れてゆく。
溝の中を一瞬、笹船が往くのを天谷と不二崎は目に止めて、二人で顔を見合わせて、粋な遊びをする者がいるね、と感心し合った。
階段を上り切るとまた鳥居があり、天谷と不二崎はせいの、でそれを潜る。
そして、二人で辺りを見回してみる。
神社は中々の広さだった。
正面に見える本殿はやはり古く、しかし、よく手入れがされていて趣があった。
神社の周りは木々と、そして、色とりどりの沢山の紫陽花に囲まれている。
天谷はため息を漏らす。
境内には、天谷と不二崎以外に人影は見えなかった。
二人は小さな手水舎で手と口を清め、そして、そのまま真っすぐ本殿へ行く。
本殿は木の細かい彫刻が施されていて、見ていて飽きない。
天女が笛を吹いている彫刻を見ながら、「この神社、恋愛成就で有名なんだってさ」と不二崎が言った。
天谷は、「へぇーっ」と声を出す。
恋愛成就のごり利益のある神社だなんて、そんなこと、天谷は知らなかった。
不二崎は、色々調べて来てくれたらしい。
「雨喬、今、好きな人、いる?」
「えっ、好きな人? ……えーっと、ど、どうだろう」
好きな人、と言われて、天谷の頭の中に日下部の顔が浮かぶ。
それが天谷には何だか恥ずかしい。
「ここで祈ると、好きな人とすっと一緒にいられるそうだよ」
「そう、何だ……。あっ、史郎は好きな人、いるの?」
「俺の好きな人? うーん……」
不二崎は一瞬、悩ましい顔をする。
天谷はそんな不二崎の様子を見てドキリとした。
もしかしたら、訊いてはいけないことだったのかも、と天谷は思う。
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