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第79話 天谷と不二崎の雨の日の過ごし方5p
「えっと」
どうしたものかと天谷が眉間に皺を寄せていると、不二崎は、ふふっ、と笑い、天谷から視線を本殿の方へと向けた。
「好きな人、いるよ」
不二崎はハッキリとそう言った。
風が吹いた。
二人は傘を持っていかれそうになる。
二人は傘をすぼめて耐えた。
風が止む。
「好きな人、いるんだ」
「うん、片思い」
不二崎が柔らかく微笑んで言う。
「そうなんだ。片思い……。史郎の思い、叶うと良いな」
天谷がそう言うと、不二崎が笑って「本当にそう思う?」と訊く。
「思うよ」
真顔で答える天谷に不二崎は少し困った顔をして、そして直ぐに笑顔を作る。
「……そう、なら良かった。叶わない恋かも知れないから、雨喬がそう思ってくれるなら、良かったよ」
不二崎は笑っているが、その顔はどこか切なげだ。
そんな不二崎を見て天谷は胸が痛くなる。
「敵わない恋だなんて、そんなこと無いよ。史郎なら大丈夫だって。史郎、凄く良いやつだし、史郎の良さをわかってくれたら、その子もきっと史郎を好きになるって!」
「そうかな?」
「そうだって!」
「ふふっ、ありがとう」
不二崎は笑う。
その笑顔は憂いを帯びていて、不二崎の恋が難しいものだということを匂わせていた。
こんな風に不二崎を悩ませる相手とはどういう人物なのか、天谷には知れなかったが、その恋が上手く行くことを、天谷は心から願った。
「さて、雨喬、お参りをしようか」
明るくそう言う不二崎に、天谷は精一杯の笑顔を浮かべて、「うん」と答えた。
二人は、お参りって、どういう手順でするんだっけと、数分悩んだが、適当にすることにして、賽銭箱に入れる小銭を探して財布を漁った。
五円玉を天谷は賽銭箱に入れ、不二崎は、二重に縁があります様にと二十円を賽銭箱に入れた。
二人揃って鈴を鳴らし、手を合わせる。
天谷は横目で不二崎をチラリと見る。
不二崎は静かに手を合わせていた。
(史郎、何をお願いしているのかな。片思いの恋が上手く行くように、だろうか。俺はどうしよう……そうだ!)
天谷は目を閉じて、気合を入れて、こう願った。
史郎の恋が叶いますように、と。
静かに願い事をする二人。
しばらくして、願い事を済ませた二人は、目を開き、お互いの顔を見合った。
「雨喬、何をお願いしたの?」
不二崎が訊ねると、天谷は、照れくさそうにして、大したことじゃないよ、とはぐらかした。
「あっ、史郎は? 史郎は何をお願いしたんだよ?」
天谷が言うと、不二崎は、ふふっ、と笑う。
「雨喬が言わないなら俺も秘密だよ。でも、俺は、雨喬と違って大した願い事をしたよ」
天谷は、それはきっと、恋の願いだろうと思ったが、口には出さずにおいた。
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