80 / 245

第80話 天谷と不二崎の雨の日の過ごし方6p

「ねぇ、雨喬、あっちにある社務所、開いてる。お守りとか売ってるかも知れないから見ても良いかな?」  不二崎が指さす社務所の方を見ながら天谷は、うん、と頷いた。  二人が社務所に向かうと、おばあさんが一人、社務所の番をしていた。  おばあさんは天谷と不二崎を見て、「こんな雨の中に良く来てくれたねぇ」と話しかけて来た。  天谷は不二崎の後ろに隠れてこっくりと頷く。  不二崎は、にっこり笑い、「ええ、雨でも、ここは趣があって良いですね」と答える。  おばあさんは、にっこりして、「そうでしょう。ゆっくりしていってくださいね」と言った。    二人は、社務所の窓口に並べられたお守りや土鈴等を眺める。  天谷はぼんやりと見ているだけだったが、不二崎は真剣な眼差しでお守りを見ている。  不二崎が目にとめているのは恋愛の守りだった。  ここには、恋愛成就と書かれた札状の物から、恋守りと書かれた小さな袋状の物、二つの貝に、恋の歌が書かれたお守りまで、恋愛関係のお守りが豊富に並んでいた。 「お嬢さん、恋愛のお守りに興味があるのかい。ここの恋愛守りは良く効くって評判でね。女の子は皆買っていくのよ」  おばあさんが不二崎に向かってそう言う。 「俺、お嬢さんに見えますか?」  不二崎が微妙な顔をして言うと、おばあさんは深く頷いて、「ええ、二人とも、随分と可愛らしいお嬢さんで」と答えた。 「え、二人ともって、俺もですか?」  天谷は驚いた顔をして自分を指さす。  おばあさんは、うんうん、と頷いている。  天谷と不二崎はお互いの顔を見合わせると苦笑いをした。  不二崎は、散々悩んだ後、ピンクと水色、二つある恋守りから水色の恋守りを指で摘まんで、おばあさんに、「これ下さい」とピシリと言った。  おばあさんは「五百円ね」と言いながら、不二崎の選んだ恋守りを白い袋に入れる。  不二崎は五百円玉と引き換えに恋守りを受け取ると、それを大事そうにリュックの中へしまう。 (史郎、恋の相手のこと、よっぽど思ってるんだな)  天谷が感心して不二崎を見ていると、不二崎が天谷の方を見て「雨喬、せっかくだから、おみくじでも引こうか?」と誘う。  窓口には、木で出来たおみくじの箱が置いてあり、おみくじ百円と書いてあった。 (おみくじかぁ。そう言えば、今年は引いて無かったな)  天谷は、日下部と小宮と知り合ってから、毎年三人で初詣でに出掛けていた。  初詣なんてめんどうくさいと言う天谷を、日下部と小宮が無理矢理連れてゆくのだ。  今年も例の如く、三人で初詣に行ったが、その時天谷は、おみくじは引かなかった。  日下部と小宮の二人は、はしゃいでおみくじを引いていたことを天谷は思い出す。 「……うん、引いてみる」  天谷はおみくじの箱をジッと見る。 (と、言ったものの、大凶とか出たらどうしよう)  そんな考えが天谷の頭を過る。 「雨喬、どうしたの? 眉間に皺が寄ってるけど」  不二崎が天谷の顔を覗き込む。  その顔は、心配そうだった。 「ううん、何でも無い。おみくじ引こう!」

ともだちにシェアしよう!