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第80話 天谷と不二崎の雨の日の過ごし方6p
「ねぇ、雨喬、あっちにある社務所、開いてる。お守りとか売ってるかも知れないから見ても良いかな?」
不二崎が指さす社務所の方を見ながら天谷は、うん、と頷いた。
二人が社務所に向かうと、おばあさんが一人、社務所の番をしていた。
おばあさんは天谷と不二崎を見て、「こんな雨の中に良く来てくれたねぇ」と話しかけて来た。
天谷は不二崎の後ろに隠れてこっくりと頷く。
不二崎は、にっこり笑い、「ええ、雨でも、ここは趣があって良いですね」と答える。
おばあさんは、にっこりして、「そうでしょう。ゆっくりしていってくださいね」と言った。
二人は、社務所の窓口に並べられたお守りや土鈴等を眺める。
天谷はぼんやりと見ているだけだったが、不二崎は真剣な眼差しでお守りを見ている。
不二崎が目にとめているのは恋愛の守りだった。
ここには、恋愛成就と書かれた札状の物から、恋守りと書かれた小さな袋状の物、二つの貝に、恋の歌が書かれたお守りまで、恋愛関係のお守りが豊富に並んでいた。
「お嬢さん、恋愛のお守りに興味があるのかい。ここの恋愛守りは良く効くって評判でね。女の子は皆買っていくのよ」
おばあさんが不二崎に向かってそう言う。
「俺、お嬢さんに見えますか?」
不二崎が微妙な顔をして言うと、おばあさんは深く頷いて、「ええ、二人とも、随分と可愛らしいお嬢さんで」と答えた。
「え、二人ともって、俺もですか?」
天谷は驚いた顔をして自分を指さす。
おばあさんは、うんうん、と頷いている。
天谷と不二崎はお互いの顔を見合わせると苦笑いをした。
不二崎は、散々悩んだ後、ピンクと水色、二つある恋守りから水色の恋守りを指で摘まんで、おばあさんに、「これ下さい」とピシリと言った。
おばあさんは「五百円ね」と言いながら、不二崎の選んだ恋守りを白い袋に入れる。
不二崎は五百円玉と引き換えに恋守りを受け取ると、それを大事そうにリュックの中へしまう。
(史郎、恋の相手のこと、よっぽど思ってるんだな)
天谷が感心して不二崎を見ていると、不二崎が天谷の方を見て「雨喬、せっかくだから、おみくじでも引こうか?」と誘う。
窓口には、木で出来たおみくじの箱が置いてあり、おみくじ百円と書いてあった。
(おみくじかぁ。そう言えば、今年は引いて無かったな)
天谷は、日下部と小宮と知り合ってから、毎年三人で初詣でに出掛けていた。
初詣なんてめんどうくさいと言う天谷を、日下部と小宮が無理矢理連れてゆくのだ。
今年も例の如く、三人で初詣に行ったが、その時天谷は、おみくじは引かなかった。
日下部と小宮の二人は、はしゃいでおみくじを引いていたことを天谷は思い出す。
「……うん、引いてみる」
天谷はおみくじの箱をジッと見る。
(と、言ったものの、大凶とか出たらどうしよう)
そんな考えが天谷の頭を過る。
「雨喬、どうしたの? 眉間に皺が寄ってるけど」
不二崎が天谷の顔を覗き込む。
その顔は、心配そうだった。
「ううん、何でも無い。おみくじ引こう!」
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