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第81話 天谷と不二崎の雨の日の過ごし方7p

 天谷は財布から急いで百円を取り出すと、おばあさんに、「おみくじお願いします!」と言って百円を手渡した。 (おみくじ何かにビビってたら男が廃る! 引いてやる!)  天谷は両手に手に力を込める。 「ははっ、雨喬、何か、やる気満々だね。あ、おばあちゃん、俺も、おみくじお願いします」 「はい、百円ね」  不二崎はおばあさんに百円玉を渡すと財布を仕舞い、天谷に、「それじゃあ、おみくじを引こうか」と、にこりとして言った。  二人は、順番におみくじを引いた。  最初が天谷で、次が不二崎。  おみくじを引き終わると、二人揃っておみくじを開く。 「うわっ、ドキドキする」  天谷が緊張した顔で言う。  不二崎は、無言で、真面目な目つきでおみくじを開いている。  開いたおみくじを、二人は顔を寄せ合って見る。 「あ、大吉っ」  天谷が明るい声を上げる。 「俺も、大吉だった」  不二崎の声はどこか気が抜けたようだ。 「史郎、おみくじ、何て書いてあった?」  言われて、不二崎が、おみくじに視線を落とす。 「え、うん、えっと、心穏やかにしていれば願い事叶う、だって。あ、恋愛運、進展ありだ」 「良かったじゃん!」 「うん、あ、雨喬はどうだった?」 「俺は、常に慎ましくあれば神の助けがあるってなってる。何か、学業が凄く良い感じ」 「ははっ、良かったね」 「このおみくじ、あの木に括り付ければ良いのかな」  天谷が、社務所の横にある、おみくじの括り付けられた木の枝を見る。  その木の枝は沢山のおみくじで埋まっていた。  不二崎は、天谷の台詞に少し考えた後に「俺は、持って帰ることにする。良いおみくじは持っておいた方が良いって聞いたことがあるから」と言って、おみくじを綺麗に折りたたむ。 「そうなんだ。じゃあ、俺も持っておこうかな」 「どっちでも、雨喬の好きにしたら良いと思うよ」  不二崎が優しくそう言う。 「うーん……やっぱり、俺も、おみくじ、持って帰るよ。史郎と同じ大吉で嬉しいから、持っていたい」  天谷がそう言うと、不二崎の顔が明るくなる。 「じゃあ、今日の記念に、二人でおみくじを持っておこう」  二人の記念。  大学に入って初めてできた友達の不二崎のその提案は天谷には嬉しいものだった。 「うん」  嬉しそうな天谷の声に、不二崎は幸せそうに笑う。  二人は、おみくじを仕舞うと、社務所に背を向けて、咲き乱れる紫陽花の方に目を向けた。  紫陽花を見る天谷の口から吐息が漏れる。 「雨喬、紫陽花、近くまで見に行こう」  そう言うと、不二崎は天谷の手に自分の手を絡ませた。  不二崎の指先は細くて、長くて、優しく天谷の手を包む。  天谷は不二崎に手を引かれながらゆっくりと歩き始めた。

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