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第86話 天谷と不二崎の雨の日の過ごし方12p

「興味、あるよ。不二崎……君に、興味ある。だから、友達になるよ」  天谷がそう言うと、不二崎の目が大きく見開かれる。  不二崎の顔は、ビックリしている、そういう顔だった。 「本当に?」  訊かれて天谷はコクリと頷いた。  それを見た不二崎の体から力が抜ける。  不二崎は天谷の服の袖を両手で掴み、その体が崩れ落ちそうになるのを耐えた。  不二崎の体の重みが天谷に伝わる。  はぁっ、と不二崎の口から大きなため息が漏れる。 「良かった。必死で口説いちゃったから引かれたかと思った」  不二崎はそう言うと天谷を見上げて笑う。 「く、口説く?」  天谷は不二崎の言っている意味が分からずに困惑する。  不二崎は天谷と友達になりたいと言った。  こういう場合でも口説くと言う言葉を使うのか? と天谷の頭にクエッションマークが浮かぶ。  不二崎が天谷を口説いているつもりでいるのなら、天谷は見事に不二崎に口説き落とされたことになる。 (うわぁぁぁーっ! この状況何な訳? 男同士で抱き合いながら口説いたとか言われてる状況ってなんな訳?)  天谷の頭がくらくらと揺れる。  そんな天谷を不二崎は笑顔のままに見る。 「俺、初めて雨喬君を見た時から雨喬君のこと気になってて、仲良くなりたいと思って……。俺の楽譜を雨喬君が拾ってくれたから、この偶然はきっと意味があるって思って、だから俺は雨喬君を口説こうって決めたんだ。ドキドキして、凄く緊張した。自分でも訳がわからなくなって……だから、もしかしたらダメかなっと思ったんだけど、良かった」  可愛い顔でこんなことを言う。  不二崎史郎とは一体どういう人物なのか。 「あの、えっと、そろそろ離れない? 何か、えっと、もうこれ以上は緊張しちゃうからっ」  天谷が赤い顔を隠すように俯いてそう言うと、不二崎は、「ああ」と言った。  しかし、不二崎は天谷から離れなかった。 「えっ? えーっと、不二崎君?」  不二崎の挙動に天谷が戸惑っていると、不二崎が天谷を上目遣いに天谷を見て、申し訳なさそうに、「ごめん、雨喬君、何か、俺、相当緊張しちゃったみたいで、体が震えて……動けないみたい」と言った。 「えっ」 「本当にごめん。あの、悪いけど、しばらくこのままでいてくれる?」 「ええ?」 「ごめん」  不二崎の眉が下がる。  それを見ると天谷の胸は苦しくなる。 「ああっ、あのっ! 大丈夫だから、そんな顔しないで! 何か、不二崎君に……友達にそんな顔されるの嫌だから!」  慌てて天谷がそう言うと不二崎は天谷の目を見つめながら「史郎、だよ雨喬」とニッコリ笑う。 「し、史郎」  天谷は呟くようにそう言う。  初めて読んだ友達の名前。  不二崎は嬉しそうに笑っている。  雨の音が小さくなる。  もう直ぐ雨が上がるのだ。

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