87 / 245
第87話 天谷と不二崎の雨の日の過ごし方13p
雨が小降りになって来た。
もう傘など必要ないくらいだった。
二人は傘を畳む。
「ずいぶんゆっくりしちゃったね」
天谷が傘に付いた水滴を落としながら言う。
「うん、そろそろ、ここを出ようか?」
不二崎が言う。
紫陽花をじっくりと堪能した二人。
天谷は紫陽花の写真を何枚かスマートフォンで撮った。
もう十分だ、と天谷は思った。
「うん」
神社を出てから、二人はアーケードに戻り、約束の通りに古本屋へ入った。
店は古い本の香りで溢れていて、その香りが本好きの天谷と不二崎を良い気持にさせた。
店の店主は白い髭を生やしたおじいさんで、実に寡黙であった。
立ち読みしていても怒られない。
この古本屋は天谷の気に入った。
天谷は夢中で本を漁った。
不二崎は天谷の隣で楽しそうにしていた。
古本屋で一時間ほど過ごし、二人で数冊本を買った。
古本屋を出た後は、アーケードの店を冷やかす。
百円ショップに金物屋。
八百屋に駄菓子屋。
そして、和風小物を売っている店に何げなく入って、二人でハンカチだとか、櫛だとかを眺めて、ああだこうだと言い合い笑う。
髪留めの置いてある前で足を止めた天谷の髪に、不二崎が梅の花の飾りの付いた髪留めを留めた。
「良く似合うよ、雨喬」
「えっ、何か嬉しくないけど」
「ははっ、いい意味で、だよ。可愛いよ」
「ううっ」
そう言う不二崎にこそ似合いそうだと思ったことは内緒にしておこうと天谷は思う。
こうして過ごすうちに、時間はあっという間に過ぎた。
「随分時間が過ぎちゃったね。今更だけど、お昼、と言うか、おやつでも食べようか」
不二崎の提案に正直お腹がすいていた天谷は賛成した。
二人はアーケードを出て、駅の方へと道を戻る。
「あ、あそこ、良さそうなカフェがある。あのカフェ、入ってみようか?」
そう言って不二崎が顔を向けたのは、道の反対側にある大きな窓のある、お洒落な雰囲気のカフェだった。
「うん、良さそう」
「決まりだね。じゃあ行こう」
二人は横断歩道を渡り、カフェへと入った。
「いらっしゃいませ。お席はご自由にどうぞ」
店員の元気な声が響く。
「好きな席に座って良いって。雨喬、どの席に座る?」
「え、どこでも良いよ」
「じゃあ、窓側の席に座ろうか。雨の雫が窓に落ちるの、見るのが好きなんだ」
「あ、それ、俺も好き。うん、良いよ」
「じゃあ、あの席に座ろう」
二人が座ったのは窓側の端の席。
天谷は窓に背を向けて不二崎と向かい合って座った。
しばらくすると、店員が水の入ったグラスとメニューをもってやって来た。
二人はグラスの水に口を付けながらメニューを見た。
不二崎は塩アイスクリーム付きのフルーツパンケーキと紅茶に決めた。
天谷は迷った挙句、アボカドとサラダチキンのサンドイッチとグリーンスムージーに決める。
メニューを店員にオーダーすると、二人は息をついた。
ともだちにシェアしよう!