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第89話 天谷と不二崎の雨の日の過ごし方15p
「何か、本が好きとか、史郎と趣味が合って良い感じだね」
天谷に言われて不二崎は深く頷く。
「あの、どうして、その人を好きになったの?」
不二崎が恋する理由。
相手の何が、不二崎の心を動かしたのだろう。
見た目?
趣味?
性格?
天谷は知りたかった。
「一目惚れなんだ。初めて見た時から、ずっと好きだったんだよ」
天谷の目を真っすぐに見て不二崎は言う。
その様子は、まるで天谷に告白をしているかのようだった。
「あのっ、えっと……」
あまりに真剣に見つめられて、天谷はどうしたら良いのかわらなくなった。
何て言葉を不二崎にかけたら良いのか、天谷は迷う。
不二崎が、恋の相手のことを強く思っていることは天谷に伝わった。
その恋が叶えば良いと天谷は思う。
でも、今、その言葉を口にするのは何かが違うと、天谷は本能的に思っていた。
今、それを口にしてしまったら何かが壊れてしまう。
そんな予感がして、だから、それ以外の何かを探す。
けれど、天谷の探す、どの言葉の中にも不二崎を満足させるような言葉は見つからなかった。
自分の不器用さを天谷は呪う。
もどかしい。
日下部に対しても、いつもこうだ、と天谷は思う。
自分に比べて、誰かを好きな感情をこんなに素直に示せる不二崎を、天谷は羨ましく思う。
(史郎、凄く相手のこと、思ってるんじゃん。何か、凄いな。俺は、日下部のこと……)
「お待たせいたしました。塩アイスクリーム付きのフルーツパンケーキと紅茶でございます」
店員の声に天谷はハッとする。
不二崎のオーダーしたメニューがテーブルに並べられる。
「お後のお客様も、直ぐにお持ち致しますので少々お待ちくださいませ」
そう言うと、店員は去って行く。
「何か、先にメニュー来ちゃって悪いね」
不二崎が恋守りをテーブルの端に置き、パンケーキを眺めて言った。
「ううん、別に大丈夫。あっ、先に食べて、アイス溶けちゃう」
「そう? じゃあ……」
不二崎はフォークにアイスクリームとパンケーキをこんもりと器用に乗せると、天谷の目の前にそれを差し出した。
「えっ?」
どういうことかわからずに固まる天谷に、不二崎はにっこりして、天谷の口元までフォークを運ぶ。
気が付けば天谷は、甘いものは苦手ということも忘れてアイスクリームの乗ったパンケーキを口に入れていた。
天谷の口の中でパンケーキのフルーツソースの甘さと塩アイスクリームの甘じょっぱさが混じり合う。
飲み込むと、喉に甘さだけが残った。
「ううっ、甘っ!」
「ふふっ。雨喬、アイス、口の端に付いてる」
「えっ、嘘? どこ?」
天谷は口元を指先で探る。
「ほら、ここだよ」
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