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第91話 天谷と不二崎の雨の日の過ごし方17p

 雨が小降りになって来たのを見計らって二人はカフェを出た。  外はまだ明るい。  横断歩道の信号が青になるのを待ちながら、二人は話をする。 「随分、長居をしちゃったね。二時間くらいはいたかも」  不二崎がカフェを振り返り、言う。 「うん。何か、お店に悪かったかな」  天谷がそう言うと、「どうだろうね」と不二崎が答える。  信号が青になる。  二人は横断歩道を渡り、駅へと向かう。  地面の水たまりを避けてジグザグに歩いて、笑いながら駅に着く。  このまま、ただこのままでいたい。  天谷はそう思う。  傘を畳み、駅の改札を天谷が抜ける。  すると、後ろから天谷を呼ぶ声がした。  その声に天谷は振り返る。 「雨喬、俺、あのカフェに忘れ物したかも」  改札をまだ潜っていない不二崎が天谷にそう呼びかける。 「えっ、本当? 何?」 「お守りだよ」 「ああ……」 「取りに戻る。雨喬はこのまま帰って」 「えっ、そんな、一緒に行くよ」 「いいから。ほら、雨、また強く降り出した。帰って、雨喬」 「でもっ!」 「俺は大丈夫だから。後で連絡するから。またね、雨喬。今日はありがとう」  不二崎は天谷に向かって手を振ると、後ろを振り返った。 「あっ、史郎!」  天谷が不二崎に向かって伸ばした手は宙を掴んだ。 「史郎……」  天谷の目の前で、不二崎の背中がどんどん小さくなってゆく。  追いかけよう、そう思った時に天谷のスマートフォンが震えた。 (史郎からの連絡?)  天谷はショルダーバッグのポケットからスマートフォンを取り出して見た。  日下部からのメールだった。  天谷はメールを開けて読んでみる。 『天谷、帰り、遅くなりそう?』  メールの内容はそんなんだった。  これから帰るところだと返信のメールを送ろうとして、天谷はメールを閉じて、日下部に電話をした。  何だか日下部の声が聞きたかったのだ。  日下部は直ぐに電話に出た。 『もしもし』と言う日下部の声に、天谷はどこか懐かしさを感じる。  もうずいぶんと日下部の声を聞いてないような、そんな感覚に陥る。 「もしもし、日下部?」 『ん、天谷、電話、どうした』 「日下部がメールくれたから」 『そか。あの、まだ友達といるよな』 「ううん。今、帰るとこで……」 『随分早いな。今一人なのか?』 「そうなんだけど。あの、日下部、訊いても良い?」 『何?』 「一緒にいた友達が、忘れ物したから、取りに戻るって。だから、俺に一人で帰ってって言って、行っちゃって。追いかけようとしたんだけど」 『うん』 「俺、追いかけない方が良い? それとも言われた通り、このまま一人で帰った方が良いのかな」

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