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第92話 天谷と不二崎の雨の日の過ごし方18p
『何だよそれ、お前はどうしたい訳?』
「それが、わかんなくなっちゃって。追いかけたいって気持ちはあるけど、それで追いかけて、嫌われるようなことになったらどうしようって思うと怖くて」
『はっ、相変わらず、面倒くさいこと考えてんな。なぁ、そんな心配するってさ、友達となんかあった訳?』
「何かって、別に……あっ!」
天谷は自分の口元を押さえる。
カフェで不二崎に舐められたそこが、急に熱く感じて天谷の口元に触れる指先が震える。
(でも、史郎、平気そうな顔してたし……それ以外のことで何かあった?)
無言になった天谷に、日下部が、『おい、大丈夫か? もしもーし』と声をかける。
「あっ、うん、大丈夫。あの、あったと言えばあったような気がするけど、相手は平気そうな感じだったけど」
『それは、案外、お前がそう思ってるだけなんじゃねーの?』
「そんな、俺はどうしたら……」
『てか、何があったの? お友達と。そんなにオロオロするようなことになるって。お前は何をやらかした訳?』
「俺がした訳じゃないってば! 史郎が俺にっ……」
天谷は口ごもる。
この言葉の続きはとても日下部には言えなかった。
『どうした、黙っちまって』
訝し気な日下部の声が電話越しに聞こえる。
「べ、別に」
『……なぁ、友達のことだけど、ほっといてやったら? 何か知らんけど、一人になりたくなったんじゃん? なら、ほっといてやれよ』
「一人になりたいって……それって、俺のことが嫌いになったとか?」
『バカ、そんなこと言ってねーだろ。色々あんだよ、そいつも。お前も余計な心配してないで帰ってっこいよ。で、ウチに寄ってけ』
「日下部の家に?」
『飯食わせてやる』
言われて、今がまだ午後四時を過ぎた頃なのを天谷は思い出す。
もしかしたら、まだ不二崎と遊んでいてもおかしくない時間だ。
「日下部、何でメールして来たんだよ」
『はっ?』
「だって、友達といるのがわかってるくせに何で帰りのことなんかメールで訊くんだよ」
天谷がそう言うと、ため息の音が電話から漏れた。
『お前さ、鈍いんだよ』
「何だよそれ!」
『はぁっ。お前、俺んち来るの? 来ないの?』
「うっ、行く。行くよ」
『了解! 待ってるから、早く来いよ』
「うん」
電話を切ると、天谷は駅のホームへ向かって歩き出した。
「…………」
天谷は振り返ると改札まで戻り、日下部に電話をする。
「もしもし、日下部?」
『何?』
「あの、少し遅れるかも。あの、俺、やっぱり友達と、史郎と帰ることにするから。このまま別れたら、何か嫌だから、だから史郎と帰るから」
『ああ? お前、さっき俺が言ってたこと聞いてたか?』
「聞いてた。聞いてたけど、そうするから」
『……しようのないヤツ。わかった。こっち着いたら連絡して。迎えに行くから』
「迎えとか、大丈夫だから。子供じゃないんだし」
『ばか! だから鈍いんだよ!』
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