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第93話 天谷と不二崎の雨の日の過ごし方19p

 日下部が電話を切った。  突然電話を切られて唖然とする天谷だったが、今は日下部のことより不二崎のことだった。  天谷は改札御出ようと足を進めた。 「雨喬!」  天谷を呼ぶ声がする。  その声の方を天谷が見てみれば、天谷を見ながら目を瞬かせている不二崎がいた。 「史郎……」  不二崎は改札を抜けて天谷の側までやって来た。  傘を持っていたはずの不二崎の服は雨に濡れていた。 「雨喬、帰らなかったの?」 「ごめん。あの、やっぱり、俺、史郎と一緒に帰りたくて……あのっ、あのっ」  泣き出しそうな声で天谷が言う。 「雨喬、君って……」 「ごめん! ごめん! 史郎! あのっ! あのっ!」  頭を下げる天谷を不二崎は、ぼんやりと見つめる。  そして、ふっ、と笑う。 「雨喬のそういうところも好きだよ」  小さな声で不二崎が囁く。 「えっ、何て?」 「何でも無い。それより、雨喬、俺こそごめんね。一人で帰って、だなんて、空気悪くすること言って」 「そんなこと無い!」 「本当?」 「もちろんだよ!」 「じゃあ、一緒に帰ろうか」 「うん!」  二人は当たり前のように並んで、駅のホームへと歩き出す。 「あっ、お守り、見つかった?」 「ああ、お守りね。リュックにちゃんと入ってたよ。うっかりしたよ」 「そうだったんだ」 「なぁ、雨喬、俺、片思いの相手のこと、諦めないから」  不二崎がハッキリとした声で言う。 「えっ、うん。わかった」  天谷の返事に不二崎は微笑む。  電車の到着を告げる音が響く。  不二崎が天谷の手を引く。 「雨喬、走って、電車が来るよ!」 「あっ、うん!」  二人を乗せて、電車が走りだす。  電車の窓を伝う雨の雫が地図のように広がる。  それを眺めている不二崎の顔を天谷は眺めている。  目が合って、不二崎が笑う。  今は……今は、このままで。  終

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