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第95話 たまには恋人らしく2p
「低俗な話で盛り上がってんなー」
日下部はそう言うと、男子高校生三人組から視線を逸らせた。
「バカ、聞こえるぞ」
天谷が体を小さくして声を潜めて言う。
「別に聞こえたって何ともねーだろ」
「そんな訳あるか。少しは気を付けろよ」
「はいはい、小心者だな、天谷は」
日下部と天谷は、すっかりと、それぞれの飲み物を飲み終えていた。
「冷たい物飲んだら何だか寒くなって来たな。そろそろ行くか」
日下部が腕をさすりながらそう言うと、天谷は、うん、と頷いた。
二人はカフェを出る。
外に出ると、空気は生暖かった。
カフェの前から二人は動かずにいる。
お互い、視線を合わせない。
少しの間、そうしていた。
「えっと、俺、えーっと……」
天谷は駅の方を横目に、ソワソワしている。
天谷は目の前にある駅を利用して大学まで通っている。
つまり、この後、二人に何も用事が無いのならば、ここで日下部と天谷は別れる事になる。
その事は日下部も分かっていて、どうすべきか、日下部は今、考えていた。
天谷をこのまま返すか、返さないか。
日下部と天谷は付き合っているが、学校では時々しか話さないし、それに、日下部は最近アルバイトが忙しい。
日下部は、中々天谷と二人でいる時間が持てずにいた。
そんな中、今日、二人は久しぶりに一緒にいる事が出来たのだ。
「えっと、日下部、あの、あっ、カフェで、えと、高校生の子達、凄い盛り上がってたな」
天谷が、まるで一緒にいる時間を引き延ばそうとするかのように、どうでも良い様な話題を日下部に振る。
「ん、ああ、そうだな。俺達が高校ん時もあんな感じだったのかな」
日下部は両手をパンツのポケットに突っ込んで空を見上げた。
まだ高校生の頃、天谷とまだ友達として過ごしていた頃。
どんな風だっただろう、と日下部は思う。
そして日下部は少し焦った。
(思えば俺達って、友達だった頃とそう変わらない関係じゃねーか。つうか、俺、コイツと付き合ってるって実感がいまいち無いんだが。うーむ、こりゃ、何とかせねばじゃね?)
ポケットの中の日下部の手に力がこもる。
「なぁ、天谷、お前って付き合ったのって俺が初めてだよな」
訊かれて天谷は顔を真っ赤にして辺りを見回す。
「バカ、こんな所でそんな話ししなくてもっ!」
「何恥ずかしがってんだよ」
日下部はパンツのポケットから片手を出すと、天谷の頭に手を置いてクシャクシャに髪を掻きまわす。
「もう、止めろって、バカ!」
天谷は日下部の手を振り払い、近くに人がいない事を確認してから「っつ、付き合うとか、日下部が初めてだけど、それが何か?」と、日下部に訊いた。
日下部が、それを聞いて、そうだよな、と頷く。
「いやさ、さっきの高校生達が話してたじゃん、初めての彼女とやりたい事あるか~みたいな。だからさ、お前は俺と、何かあんのかな、と思ってさ」
「えっ、何かって何?」
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