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第98話 たまには恋人らしく5p
「日下部、何笑ってるんだよ」
天谷がグラスを口に付けながら怪しそうに日下部を見る。
「別に、何でも無い」
日下部はそう言ったが天谷は納得いかない風だ。
「一人で笑うとか、気持ち悪い。何なんだよ」
「何でも無いって!」
「ええーっ」
「なぁ、それより、これから何する? この間借りたDVDがあるからそれでも観るか?」
この間、日下部はバイト帰りにレンタルショップでサスペンス物の映画のDVDを借りた。
その映画は天谷おススメの物だった。
「うん、映画でも良いよ」
「それじゃあ、準備するから待ってて」
「うーん……あのさ、日下部。俺……くらいならしても良いかなって」
天谷が小さな声で何か言う。
しかし、余りに小さな声だったので日下部には聞こえなかった。
「は? 何だよ、天谷、聞こえねーよ。もっとちゃんと言って?」
日下部がそう言うと、天谷は少しむくれて、「だから、さっき、あの高校生達が話してた事! 膝枕くらいならしてもいいかなって思ってさ!」と言った。
「はぃ? お前、突然何言ってんの?」
日下部はこれ以上ないくらいに驚いた顔をして天谷を見た。
天谷からそんな台詞が出て来るなんて日下部は想像もしていなかった。
一体天谷はどうしたというのか?
「熱でもあんじゃねーの?」
そう言って、日下部は天谷の額に手を当てる。
そして、「少し熱いかもな」と呟く。
天谷は日下部の手を払いのけると「熱何て無いから」と、頬を膨らます。
「だって、お前の口からそんな事、正に青天の霹靂じゃん」
「何だよそれ。いやさ、カフェの前でお前と話した事、ずっと考えてて。俺は日下部と一緒にいれたらそれでいいけどさ、日下部は言ったじゃん、あの高校生が言ってた様な事くらいは俺としたいってさ。だから、その中から今、俺が出来る事っていったら膝枕かなって」
「お前、カフェからずっと、そんな事考えてた訳?」
「うん、まあ」
「そか」
日下部は天谷の顔をジッと見る。
(俺は、コイツをどうしたらいいんだろう)
日下部は考える。
してやりたい事は山ほどあるのに、なぜか出来ない。
肝心な時に体が動かない。
今だって、抱きしめてやればいいのに。
たまに見せる、天谷の不安そうな顔。
その顔に向かって、どうして好きだと言えないのか。
日下部は複雑な表情を浮かべていた。
「日下部?」
天谷の声に、日下部はハッと我に返る。
「あっ、ああ、ごめん。あーうん」
膝枕。
天谷からの突然の提案。
きっと勇気を出したに違えない。
(応えてやらないと)
日下部は決めた。
「じゃあ、よろしくお願いします、膝枕」
日下部は頭を下げて言った。
「えっ、マジで?」
天谷の声は裏返っていた。
「何だよ、おまえの言った事じゃん」
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