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第99話 たまには恋人らしく6p

「だだだっ、だって」 「だってって何だよ。自分で言っておいてまさか、逃げる訳? 男らしくないぜ、天谷。まぁ、それならそれで良いけど」  ふざけた調子で言う日下部に「はぁ? 逃げるとか、ある訳ないし! やる、やる! いま直ぐやるから!」と、頭に湯気でも湧きそうな勢いで天谷は言う。 「それじゃあ、やって貰おうじゃん」  日下部は不敵な笑みを浮かべた。  そんな日下部を天谷がキッと睨みつける。 「ああ。その代わり、日下部もやれよ。俺だけとか不公平だし」 「はぁ? 不公平? 意味わからん」 「うるさい! とにかく、日下部も膝枕して貰うから!」 「お前、俺に膝枕して欲しい訳?」 「べ、別に、そう言う訳じゃ無いけどさ。俺だけやるとか、何か恥ずかしいじゃん」  天谷は俯いてボソリとそう言った。  天谷の言いだした事なのに恥ずかしい……だなんて、良く言う、と日下部は思う。 「はーっ。分かったよ。俺もやるから。ほら、さっさと膝枕しようぜ、ほら!」  日下部は床を叩いてそう言った。  床がバンッと鳴る音に、天谷の体がビクリと反応する。 「え、俺から? なぁ、日下部、順番じゃんけんで決めない? 負けた方が先に膝枕する、とかさぁ」  床に触れている日下部の手を見ながら天谷が恐る恐ると言う風に日下部に言う。 「じゃんけんって、お前、じゃんけん弱いじゃねーか。そんなの初めから勝負が決まった様なもんだし。初めからお前でよくね?」  日下部は、いまだかつて天谷がじゃんけんで勝った所を見た事が無い。 「うっ、でも、心の準備が。胸のドキドキが……。日下部、頼むからじゃんけんで!」  今にもすがり付きそうな勢いの天谷を見て、日下部は「仕方ねーな」と面倒くさそうに頭を掻いた。  天谷はホッとした様で、「それじゃあ、じゃんけんな」と拳を握りしめた。  面倒くさげに日下部も拳を握る。 「じゃんけんー!」  天谷はそう言ったのと同時に拳を勢いよく引く。  日下部はノリ悪くそのまま拳を握ったままでいる。 「ぽん!」  の天谷の声と同時に天谷はパーを出す。  日下部はチョキ。 「ま、負けた」  天谷の悲し気な声が部屋に響いた。  日下部は冷めた目で天谷のパーの手を見る。 「ほら、言ったじゃねーか。お前の負けだよ。てか、どんだけ弱いんだよ」 「ううっ、そんな事言われても。っつ、仕方ねー。じゃあ、俺からやるから」  不満そうな顔をして天谷は姿勢正しく正座をすると、日下部を睨んで「ほら!」と膝を叩く。 「おっ、珍しく潔いじゃねーか。男らしいぜ」  からかう日下部に天谷は嫌そうな顔を見せる。 「無駄口叩いてないで早くしろよ。足、痺れる」 「はいはい。じゃあ、早速」  日下部は天谷の前で横になり、そして、ゆっくりと天谷の膝に頭を乗せた。  そのまま天谷の顔を見上げて見れば、天谷が、恥ずかしいのか、固く目を瞑っているのが見える。  日下部は笑いそうになるのを堪えた。  このまま天谷の顔を見ていても良いのだけれど、日下部は頭の向きをちょっと変えてみる。 「ちょ、なんかくすぐったい。動くなよ、日下部」  天谷の閉じていた目が開き、日下部を見下ろした。

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