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第100話 たまには恋人らしく7p

「少し動いただけじゃん」  日下部は再び天谷の膝の上でもぞりと動いた。 「あっ、やだって、もうっ……くすぐったい。動くなよっ……」  日下部が動くので落ち着かないのか天谷は膝を微妙に動かしながら、もじもじしている。  意地悪もこの辺で、と日下部は動くのを止めた。  天谷から、「はぁっ」と安どのため息が漏れる。  天谷が落ち着いたのを見計らって、「で、どう、天谷先生、膝枕した感想は?」と、日下部は訊いてみる。 「先生は止めろ。うーん。んー。何か、膝、生暖かくて、日下部が近くて、ドキドキするしっ、落ち着かなくて……しかも、は、恥ずかしい」  天谷の台詞に日下部は思わず吹き出した。 「マジか。お前にとって膝枕って結構ハードル高いんだな」  天谷は妙に納得した、という顔をして、「そうかも。人生初だし」と言う。 「そりゃ、凄いな。どれ、人生初の膝枕で恥ずかしがっているお前の顔でも下からじっくり見てやるか」  言ってから日下部は両手を天谷の顔に伸ばして天谷の頬を手で包み込むと、その手をグイッと下へ動かした。  すると、天谷の首がガクンと下を向く。  天谷の体がビクリと動く。 「うわっ、止めろよ、ばか、もうっ!」  天谷が目を細くして日下部を見ている。  紅色に染まった天谷の顔。  結ばれた唇がふるふると振るえている。 (おお、可愛いじゃん)  日下部は口元を緩ませた。 「何笑ってるんだよ、ばか!」  天谷はそう言うと、日下部の鼻を思い切り摘まむ。  急な攻撃に油断していた日下部は悲鳴を上げる。 「痛って! 何やってんだよ!」  日下部の抗議の声に、「だって、日下部が人の顔見て笑うから」と天谷。 「そりゃ、お前を可愛いと思ったからニヤけたんだよ」  その台詞に、天谷は動揺を見せる。 「はっ、はぁ? 何言ってんの? お前、何言ってんの?」  触れたままの頬から天谷の体温が上がるのを日下部は感じる。  このままずっと触れていたい、と日下部は思う。  しかし。 「もう手、放せ! ばか! 暑苦しいし!」  天谷はそう言う。  照れ隠しなのは見ていてわかる。 「ああ、もう、うるせーな」  日下部は仕方なく天谷の頬から手を離した。  日下部を見下ろす天谷の瞳がパチパチとせわしなく動く。 「また俺のことからかってんだろ。日下部のろくでなし!」  天谷は不機嫌な顔をしてそっぽを向いた。  どうやら機嫌を損ねたらしい。  あーあ、と日下部は心の中で呟く。  日下部は苦笑いすると、これからいかにして天谷の機嫌を取ろうかと考えた。 (飯でも食わせてやろうか。それともスキンシップ? いやいや、スキンシップとか、嫌がりそうだろ)  日下部が黙ってあれやこれや考えているうちに、気が付けば天谷が不安そうに日下部の顔を覗き込んでいた。 「どうしたんだよ、そんな顔して」  日下部が訊くと、天谷は、「だって、日下部がずっと黙ってるから、なんか心配になって」と、切なげに言う。  さっきまで不機嫌であったのに今度は心配だという。  天谷の感情は気まぐれな天気ほどに変わり、揺れる。  そんな天谷に日下部はいつだって振り回される。  しかし、日下部は、それを面倒くさいと思いながらも、どこか楽しんでいた。  それこそ、気まぐれな天気を、今日は雨か、明日は晴れかと楽しむように。 「何か怒ってる?」  不安な顔のまま天谷が日下部に訊く。 「怒ってねーよ」  日下部はそう言うと天谷の鼻を摘まんだ。

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