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第102話 たまには恋人らしく9p

「うっ。何か、非常に恥ずかしいんだけど」  天谷の台詞に日下部は深いため息を付く。 「お前、自分が言ったんだろ。俺の膝枕が欲しいってさ」 「そんな風には言ってないだろ!」 「同じようなもんだろ」 「いや、違うだろ! 断じて違うだろ!」 「お前、男らしくないぞ! 自分で俺にも膝枕しろって言っておきながら!」  日下部がそう言うと、天谷は思いっきり日下部を睨み、「わかった」と一言言って横になって日下部の膝の上に勢いよく頭を乗せた。 (挑発に乗りやすいやつだな)  日下部は心の中でひっそりと思った。  天谷は日下部の膝の上に頭を乗せながら、しばらく黙って部屋の天井の一点を見ていた。  そんな天谷を日下部も黙って見下ろす。  日下部の見る天谷の表情は緊張しているのか、硬かった。  大の字に伸ばされた手足には力が入り、まるで磔にでもされているかのようだった。  日下部は、いつもだったらそんな天谷をからかってやるところだったが、今はそんなことはせず、黙って天谷を見ている。  沈黙の間、扇風機の回る、ブーンッという音が日下部の耳にやけに大きく聞こえた。 「なんか変な感じ」  天井を見たまま、天谷がぽつりとそう言った。 「何が?」  日下部が訊くと、天谷は「何となく」と答えた。  天谷の視線が天上からゆっくりと日下部の方へ向く。  二人の目が合う。 「人の膝ってあったかいのな……」  言ってから、天谷は少し恥ずかしそうにして日下部から目を逸らした。  そんな天谷を見て、日下部は、ふわりと笑うと、天谷の髪に指を通す。  天谷はピクリと体を動かす。  天谷の髪は、するりと日下部の指を滑り落ちた。 (砂みたい)  今度は天谷の髪を指に絡ませてみる。  髪は一瞬、日下部の指にとどまり、そして、はらはらと指から解けてゆく。 「何やってんだよ」  困り顔で天谷が日下部を見つめる。 (そんな顔されてもな。まぁ、こいつ、人に触られるの嫌いだし、仕方ないか……でも)  日下部は天谷の髪に再び指を絡ませると、「こうされるの、嫌?」と、あえて訊いた。  一瞬の間の後、天谷はさらに困った顔をする。  その困った顔で、日下部の顔を見る。  目は逸らさないで、じっと。  日下部の表情から、彼の真意を探ろうとでもするかのように。

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