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第103話 たまには恋人らしく10p

「別に、嫌じゃ……無いけど。それって膝枕に必要なことなの?」  真面目そうに天谷は訊く。 (何だそりゃ!)  やっと口を開いた天谷から出た台詞に日下部は笑いを堪える。 「うーん、わりと必要なことじゃね。膝枕しながらじゃれ合うのが膝枕の醍醐味だろ?」 「えっ、そういうもん? じゃれ合うとか、どうしたら良いのやらなんだけど」 「じゃあ、俺が勝手にじゃれるから、お前はマグロになっとけよ」 「え、いやいや、それはそれで恥ずかしいし! 無理無理!」  首を振る天谷。 「無理って、これも勉強だろ。男らしく膝枕されておけ!」  ビシッと言う日下部。 「お、男らしく?」  うさん臭そうに天谷が訊いた。 「そう、男らしく」  日下部は深く頷く。 「うっ、わかった」  扇風機の回る音が響く中で、日下部は天谷の髪に指を滑り込ませて、天谷の頭をマッサージしていた。  ゆっくり、優しく頭を撫でる。  さらりとした天谷の髪のお陰で撫でやすい。  天谷は黙って日下部に撫でられている。  時折、素早く瞬きをしながら。 「どう、天谷」  不意に訊かれて天谷はハッとした顔をする。 「うっ、ん。気持ち、いいかも」 「マジか。良かったー」  本気でホッとする日下部だった。 「マッサージって初めてされたけど、わりと良いもんだな。つか、何か、日下部、手慣れてる感じ」 「ああ、俺、マッサージ、わりと上手いんだわ。元カノとかに、よくやってた」 「え、何それ。膝枕しながら、とか?」  顔を顰めて天谷が訊くと、日下部は、「まぁ、そんな感じで」と答えた。  そう言ってしまった後で、まずかったかなと日下部は天谷の顔色をうかがう。  天谷の眉間には皺が寄っていた。  しかし、怒ってはいないように見えた。  怒っているなら、ばかとか、あほとかの言葉が日下部に降って来るところだ。  ホッとして、日下部は天井を仰ぎ見る。 「日下部、手、止まってる」  きつめの声で天谷に言われて、「ああ」と日下部はマッサージの続きをする。  挽回の意味も込めて、今度は頭をもみ込んでゆく。  指全体で、包み込むようにして、優しく、優しく。  はぁっ、と天谷が息を漏らす。 「これ、気持ち良いの?」  日下部に訊かれて天谷は、「うん」と頷いた。 「そか」  短い会話。  でも、日下部は満たされた気分だった。  マッサージを続けること数分。  天谷の緊張はすっかり解けて、体はだらりとしていた。  天谷は目を薄く開き、時折、小さくため息を漏らした。  そのため息が、憂鬱のため息では無く、気持ち良いからであることが日下部には嬉しい。 (さすがに指、疲れて来たな)  そう思ったが、自分の膝の上で心地よさげでいる天谷を見ていると、なかなか止めるタイミングを掴めない日下部だった。 (しかし、頭ばっかりマッサージしてるのも少々飽きて来たな)  日下部は天谷の顔に視線を向ける。  天谷は小さくあくびを漏らしていた。 (お気楽なやつ)  そう思ったら、日下部に、ちょっとした悪戯心が湧いて来た。

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