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第104話 たまには恋人らしく11p

 日下部は天谷の頭から手を離すと、人差し指の先を天谷の顎につけてから首の下まで線を描くように動かした。  ゆっくりと、這うように。  きっと天谷は怒るだろう。  日下部はそう思った。 「んっ、あっ」  天谷の口から甘い声が漏れた。 「えっ?」  予想もしていなかった天谷の反応に日下部は戸惑う。  天谷は不機嫌な表情は見せずにぼんやりと日下部を見ていた。 「あ、天谷?」  呼びかけても天谷は日下部を見つめているだけで何も言わない。 (な、何だよ、これ、調子狂う。いつもみたいに怒って見せろよ!)  日下部は再び天谷の首を指でなぞる。  今度は中指と人差し指とで、そっと。 「はぁ、っつ」  日下部の指の動きに合わせて天谷の首が後ろに反ってゆく。  日下部の指が離れると、天谷は落ち着かない呼吸を繰り返し、潤んだ目で日下部を見上げた。 「ちょ、待っ……」  日下部は思いっきり動揺した。  そして、大いに混乱していた。 (待て、待て待て! 何なの? 何なの、これ? 俺、何か試されてる? 何で抵抗しないんだよ! つか、天谷って首弱いの? この反応、どうなってんだよ!)  冷静になれ、と日下部は自分の脳に命令する。  日下部の視線が天谷の甘い表情を浮かべた顔から首へ向く。  白くて細い天谷の首。  白い皮膚にうっすらと喉仏が作るカーブが出来ていて、それが綺麗だった。  見惚れてしまうほどに。  こんな時に魅入られてしまってはいけないはずなのに、日下部は憑りつかれたように天谷の首に、手を置いた。  じっくり触れてみると、汗でしっとりとしているのがわかった。  いや、汗で濡れているのは日下部の手の方かも知れなかった。  日下部は手を下へ滑らせる。  途端に天谷から甘い吐息が漏れる。  喉仏を指で上下に擦ってやると、天谷は、「はっ」と息を漏らして身じろぎ、震えた。 「く……さか……べっ」  酔ってしまいそうな甘ったるい声で途切れ途切れに名前を呼ばれれば、日下部の理性はもう吹き飛んでいた。  開け放たれた窓から風が入って来る。  カーテンが膨らんでスカートのようになる。  蝉の鳴く声がした。  日下部は熱を感じる。  額を汗がつたう。 (夏だ)  そう思って日下部は、今はそんなことを考えている状況では無いことに気付く。  日下部は先ほどから心臓の鼓動の音がうるさくて仕方ないのだ。  日下部は床に寝そべった天谷に覆いかぶさっていた。

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