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第106話 たまには恋人らしく13p
天谷の白い半そでのシャツは、花火の屑が付き、しかも紫色に染まった。
水浸しの天谷は苦い顔でシャツを脱ぐと、シャツをギュッと絞った。
小宮は天谷に謝りながらも「鈍いやつだな」と笑っていた。
日下部は小宮の笑い声を聞きながら天谷のあらわになった上半身の体を何気なく見た。
落ちかけた日に照らされ、オレンジ色に染まった天谷の肌。
細い腰は綺麗な曲線を描いている。
綺麗だな、と日下部は思った。
触れてみたい、そう思った。
そう思った後で、胸の赤い飾りが果実のように見えて、それを口に含んだなら、どんな味がするのか、と日下部は自然とその場面を想像した。
途端、体の中心に熱を感じて日下部はハッとした。
日下部は慌てて天谷から目を逸らした。
そして、体の熱を冷まそうと意識を別の方へと向けた。
山の上に溶けてゆく夕日。
小宮の笑い声。
友達と三人で、ただ花火をしに集まったという現実を見る。
天谷は友達だから。
男だから。
こんな風になったらダメだから。
天谷は絶対にダメだから。
そう自分に言い聞かせる。
そう思ったはずなのに、今、日下部と天谷は付き合っている。
あの夏の日から、高校生であった日下部にとって天谷は複雑な存在になってしまった。
大事な友達であって、欲望の対象であって、そんな天谷を遠ざけたいけど側に置いておきたくて。
天谷と付き合うことになって、日下部は心底安心したものだった。
少なくとも、付き合っているうちは天谷が他の誰かの物になってしまったら、と心配しなくてすむから。
シャツのボタンがやっと全部外れた。
随分と手間取ってしまった日下部は安どのため息を吐く。
(俺、カッコ悪い)
日下部は、天谷が白けていないかと、顔を伺う。
天谷はぼうっとしていて、ゆっくりと瞬きを繰り返ししている。
何を考えているのか、その表情から読み取ることは出来なかった。
日下部は視線を天谷のシャツに戻し、ゆっくりとシャツを開いた。
日下部の心臓の鳴る音が、外に漏れるのではないかと思うほどに高鳴る。
シャツが擦れてくすぐったいのか、天谷が、「んっ」と言って身じろいだ。
それだけで日下部の心臓は鼓動を速めた。
シャツは左右に開かれ、床に、ふさり、と落ちてゆく。
シャツのはだけた天谷の体を見て、日下部の喉がごくりと鳴った。
天谷の、汗でしっとりとした肌は白く、雪のようで、平らな胸に、赤い色が溶け込んでいた。
あの夏の日。
あの時に見た天谷の姿は日下部の目にずっと焼き付いていて、今、日下部はそれを思い出していた。
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