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第107話 たまには恋人らしく14p
(やっぱり綺麗だな)
同じ男の体なのに、この体に惹かれてしまう。
この体が欲しい、と何度思ったか知れない。
でも、その度に、色んな理由を浮かべてその感情を打ち消して来た。
ある時は友達だから。
ある時は男だから。
ある時は、まだそのタイミングじゃ無いから。
ある時は天谷が嫌がるから。
触れたら、何かを壊してしまうかも知れないから。
そんな言葉で日下部は自分の欲望にブレーキを踏んでいた。
でも、今、そのブレーキは外されている。
日下部は天谷の体に、そっと触れてみる。
胸の中心。
そこに、手のひらを、そっと置いた。
ヒヤリとした天谷の肌が心地いい。
その感覚に日下部はしばらく酔う。
触れているそこが日下部の手の熱で温まったころ。
酔いの回っていた日下部の頭に冷静さが、ふと湧いた。
(あれ? 男ってどうやって抱くんだ? 全くわかんねーんだけど)
日下部の顔に困惑の表情が浮かぶ。
日下部の今までの相手は女だった。
天谷は男で、その天谷をどう抱いたらいいのか、経験のない日下部にはさっぱりだった。
妄想の中でなら、何度だって天谷を抱いたのに、いざその時になるとわからなくなってしまう。
日下部は天谷の白い体を見下ろしながら固まってしまった。
(うっ、どうしよう。マジで……。この先、どうしたら良いわけ? ああっ、こんなことならネットとかで勉強しとくんだった! つか、こいつ、初めてだよな。こいつのそういう話、今まで聞いたことないし。こいつ、潔癖だし……ディス・イズ童貞だよな。何かして引かれたらどうしよう)
後悔先に立たず。
天谷の体の上で、青い顔の日下部だった。
どう触れたらいいんだろう。
何をしてあげたらいいんだろう。
天谷は何が欲しいんだろう。
考えれば考えるほど、頭が痛いやら何やらで、日下部は眉間を押さえた。
日下部は初体験の時に戻ったかのような錯覚を感じる。
自分は何も知らないガキで、カッコ悪くて、欲望にだけ忠実で、でも、ただ一生懸命で……。
(ああっ、もう! 何やってんだ俺は! 俺が狼狽えてどうする! と、取り敢えず、女も男もやることは一緒だよな? だよな? 普通に、普通に優しくっ! 優しく抱けばいいんだ!)
そう自分に言い聞かすと、日下部は欲望を解き放ち、天谷の頬にキスをした。
天谷と初めて出会った日。
天谷にしたこと。
あの時はアクシデントだった、けど、今は違う。
日下部は自分の心臓の音が体中から鳴るように思えた。
緊張の中で、天谷の柔らかくて冷たい頬の感触が残像みたいに残る。
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