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第110話 たまには恋人らしく17p

「はぁーっ」  大きなため息が日下部の口から出る。 (俺ってめちゃくちゃかカッコ悪。で、最悪。つうか、これ、どうすんだよ……)  日下部はまだ熱を持ったままの自身の下半身に目を向けた。  白けさが下り始めた気分とは裏腹の自分の体に日下部はうんざりとする。 (小宮から回って来た例のDVDで何とかするか……いや、でも、こいつ寝てる隣で、とかあほすぎるだろ! あー、もう!)  日下部の口から再びため息が漏れる。 (はぁ、とりあえず、こいつの服、元通りにして、それから、それから色々考えよ……)  日下部は自分の体を支えている両手で床を強く押して、天谷の体から離れようとした。  その瞬間。 「くさかべ……っ」  名前を呼ばれた。  甘い声。  まだ離れないで、と言うように。  日下部は天谷の顔を見降ろす。 「っつ……何だよ、こいつ……」  浮き上がった日下部の体がまた沈む。  日下部の心臓が高鳴り出す。  日下部は苦笑いする。  日下部は天谷の頬に片手を添えて、天谷の瞑った目を見ながら「天谷、俺、お前のこと」そう言って、それから唇を天谷の耳に寄せて……そっと、一言呟いた。  風が窓から入って来る。  カーテンが揺れる。 (だからお願い、あとちょっとだけ、このまま……)  日下部の声。  こんなに近くで聞こえるのに、何を言っているのかわからない。  知りたい。  確かめたい。  日下部に何を言ったのかと訊きたい。  でも、瞼が重くて、体が重くて叶わない。  今感じている感覚。  少しのだるさと、そして心地よさと、後、何か……。  その何かを確かめるのが、怖くて……。  天谷は眠りの中にいた。 「ん……あっつ」  時たま自分の口から漏れる声を他人事のように頭で聞きながら。  でも、今、自分の体が感じている感覚だけは他人事のように流せないでいた。  体中を包む温かい感覚と、揺れる波のように打ち寄せて来る、ぞくぞくとした感覚。  時に優しく、時に激しく感じる刺激に、天谷はおかしくなりそうだった。  これは夢の中だと天谷は思う。  夢の中で夢だと思うだなんて、おかしな感じだ、と思う。  日下部が、名前を呼ぶ。 (日下部、そこにいるのか?) 

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