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第116話 テノヒラノユキヲ見ㇽ日1p

 これは、天谷と日下部が、まだ付き合う前の話だ。  高校最後の冬休みの初日、天谷雨喬は市立図書館の広い机に向かい、一人、本を読んでいた。  天谷は、図書館が開いてから直ぐに図書館にやって来て、本棚からゆっくりと本を選び、出来るだけ分厚い小説を選んでゆっくりと読んでいた。  図書館は人はまばらで静けさに満ちている。  そんな中で、天谷の緑のロングコートのポケットに入ったスマートフォンが震える音が響いた。  マナーモードにしていても、周りがこう静かだとスマートフォンの震える音は目立つ。  天谷はすまなさそうな顔をして、辺りを見回すと、慌てて自分が座っている席の隣の席の椅子に畳んで置いたコートのポケットからスマートフォンを取り出し、画面をそっと確認する。  天谷の友人の日下部光平から電話が入っていた。  天谷は、電話をどうしようかと迷った後に、今、図書館にいるから電話に出られない、何か用事?  と日下部に、メールを送った。  すると、日下部から直ぐにメールの返信が来る。 『これから会えない?』  え、と、天谷は思った。  スマートフォンの画面と机の上にある本を交互に見て、天谷は考える。  天谷は、今日一日、一人で過ごす予定だった。  学校も休みに入ったばかりだったし、受験勉強の息抜きもしたかった。  だから誰かと一緒に過ごす、だなんて考えもしなかった。  そもそも、自分と会いたいと思っている人間がいることが天谷には不思議だった。 『俺と会ってどうするの?』  思ったことを、素直に天谷はメールで送った。  日下部からのメールの返信を待つと、スマートフォンが電話の着信を知らせて震える。 (ちょ、図書館にいるって言ったのに電話してくるってどういうやつだよ)  天谷は、あわあわとして、首を左右に揺らし、荷物を持って図書館の外へ急ぐ。  そして、外へ出たのと同時に電話に出た。 「日下部、図書館にいるって言っただろ。何で電話するんだよ」  天谷は頬を膨らませて、ボソリと言う。  対して、日下部の方は、のほほんとした口調で『悪い、だって、お前が、おかしなこと訊いて来るからさ』そう言った。 「おかしなことって、何? 何がおかしい?」  不機嫌に天谷が訊くと、日下部は、笑って、『だって、俺と会って、どうする、とかって普通訊くかよ。会いたいから会うんだよ、悪いか』そう言った。 「あ、会いたい? 俺と? 何で?」 『何で、って、お前、面倒くさいやつだな。だから、ただ、お前と会いたいんだよ。お前と会って遊びたいだけだよ。あ、お前、もしかして、何か予定あるわけ? なら無理に誘わないけど』 「予定は……」  天谷の頭の中を、図書館の机の上にそのままにして来てしまった本がかすめる。 (どうしよう。どうしたら良いんだろう。今日は一人の気分だった……けど、日下部からの誘いだし……もし断ったら、日下部は嫌な気分になるかな。断ったら嫌われる? 逆に、会いに行って、退屈させて嫌われるとか……)  頭の中で、ゴチャゴチャに考えて、天谷は黙ってしまった。  電話の向こう側で返事を待ちくたびれた日下部のため息がする。

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