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第117話 テノヒラノユキヲ見ㇽ日2p

『天谷さ、今日が何の日か知ってたか?』  訊かれて天谷は、知らない、と答える。  日下部は、だよな、俺も昨日、学校に行くまで知らなかったよ、と答えてから、『俺、今、カササギデパートの中のでっかいクリスマスツリーの前にいるから。そこで待ってるから、早く来て。じゃあな』そうぶっきらぼうに言って電話を切った。  天谷はすでに電話が繋がっていないことを忘れ、ツーツーと鳴るスマートフォンに向かって夢中で日下部の名前を呼びかけた。  そして、舌打ちをすると、日下部に電話をかける。  日下部は電話に出なかった。  三度かけても日下部は電話に出ない。  天谷は電話を諦めて、日下部に宛ててメールを打つ。 『日下部、いきなり待ってるって、そんなの』  と、ここまで文字を入力して、天谷の指は止まる。 「日下部のバカ!」  多少大きな声な声で天谷はそう言うと、図書館の中へ戻り、机の上に置きっぱなしになっていた本を手に取る。  そして、カウンターまで行くと、本を借り、借りた本をリュックに滑り込ませると、速足で図書館を出た。  外へ出ると、冷たい風が吹いて、天谷の頬を撫でつけた。  そういえば、コートを着ていなかったと天谷は思う。  コートをもどかしい仕草で羽織りながら天谷は目的の場所目指して足を速めて歩く。  日下部の待つ、カササギデパートへ。  カササギデパートは駅前に存在する大きなしゃれたデパートだ。  デパートの名前が何故カササギデパートなのかは誰も知らないが、天谷の住む街でカササギデパートの名前を知らない者は誰もいない。  そのカササギデパートの一階の中央広場は今、人で溢れかえっていた。  親子連れや友達同士など、色々な人達がいる中で、特に男女のカップルの姿が多い。  中央広場をゆっくりと歩いて過ぎてゆく大抵のカップルが腕を絡めて歩いていて、彼らはそれで歩きにくくないのかという疑問を忘れそうになるほどに幸せそうな顔をしていた。  そんなカップルたちに紛れて、見上げるほどに背の高い白いクリスマスツリーの前で、息を切らして天谷は辺りを見回していた。  この人混みの中に日下部は本当にいるんだろうか、と天谷は不安になる。  天谷はツリーの周りをぐるりと回って日下部を探してみた。  すると、見つけた。  ツリーの真下のベンチに紺のロングコートを着て、首に深緑のマフラーを巻き付けた日下部が座っていた。  日下部は、紙コップに入ったコーヒーらしき物をプラスチックの蓋の飲み口に口を付けて飲んでいた。  日下部を見つけて天谷は、ほっと息をついた。  そして、そっと日下部に近付く。 「あの、日下部」  天谷が小さな声で声をかけると、日下部が、「んっ」と、天谷を見上げた。 「早かったな、急がせちまった?」  日下部が自分の隣の空いた場所に座るように手で示しながら天谷に言う。  天谷は、別に、と言い、日下部の隣に腰を下ろした。  天谷と日下部の周りでは、数名のカップルがいちゃついている。  男同士の天谷と日下部は完璧にこの場で浮いていた。

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