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第119話 テノヒラノユキヲ見ㇽ日4p
「何だよ、それ、わけわからない」
「良いんだよ、お前はわからなくても」
「はぁ、そう……」
日下部はそう言うが、日下部は一体どうして自分を呼び出したのか、天谷は気になって仕方がない。
(会いたいって、冗談みたいなこと言われて会いに行くとか、何か、俺がバカみたいじゃんか)
日下部と一緒にいる理由が欲しい、と天谷は思う。
どうしてそう思うのかは、天谷にもわからない。
(こいつって、本当、何を考えているんだろうな)
天谷は瞼を瞬かせる。
日下部が何を考えているのか、気が付けば、それはいつも天谷を悩ませる問題となっていた。
天谷と日下部は性格が違いすぎている。
天谷にとって、自分と対極にいる日下部の気持ちを理解するのは難しかった。
そんな人間とは、本来、距離を置くはずの天谷が、日下部に呼ばれれば、こうして会いに行く。
不思議なものだった。
「あのさ、お前ってサンタクロースのこと、いつまで信じてた?」
不意に予想もしなかったことを訊かれて、天谷は視線を宙にさ迷わせて考えた後に「五歳までかな」と答えた。
「え、五歳までかよ。短くね?」
あっけらかんとして日下部は言う。
そんな日下部に、天谷は肩をすくめて見せる。
「いや、五歳のクリスマスの時にさ、サンタクロースからプレゼントを貰ったんだよ。ほら、朝起きたら枕元にサンタさんからのプレゼントがあるっていうパターンでさ。で、喜んでいたらさ、母親……がさ、耳元で囁いたわけだよ」
「ほおぅ、何て?」
「それは、お父さんが買ってくれたんだよ。サンタクロース何て嘘だよ、ってさ」
天谷はその時のことを、見慣れた映画のワンシーンでも思い出すかのように脳裏に再生した。
そして、苦笑いをする。
そんな天谷の顔を見ながら、日下部は、「それで、お前、サンタクロースを信じていないわけ?」と訊く。
その問いに天谷は「五歳の時から俺の人生にサンタクロースはいないよ」と答える。
「そうかぁ」
短くそう言った後に日下部は、俺はさ、と続ける。
天谷は体ごと日下部の方を向いて、日下部の話を聞く姿勢を取った。
日下部は偉く真面目な顔をして、偉く真面目な口調で後を続けた。
「俺はさ、今でも信じてるんだ」
日下部の台詞に天谷は、え、と声を漏らす。
「信じてるって、サンタクロースを?」
冗談だろ? の気持ちを込めて天谷は訊いた。
「オフコース」
日下部は、自信満々に答えた。
「何でだよ」
「何でって、何でだよ? いちゃマズいか? サンタクロース」
「別にマズくないけど、でも、俺はさ、もう信じられないよ。信じてた時期より信じて無かった時期の方が長いんだからさ、今さら、だ」
「まぁ、そう言わずにさ、今からでも信じろって。信じる者は救われるんだぜ」
「今さら、サンタクロースを信じたところで何が救われるんだかわからないよ」
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