125 / 245

第125話 テノヒラノユキヲ見ㇽ日10p

 だから、本当なら日下部に自分のラーメンを食べさせてあげるなんてとんでもない話だったが、だが、しかし。 (ど、どうしよう。ここで断ったら日下部が傷つくかも。嫌だけど、でも……)  天谷は、迷ったあげく、自分のどんぶりを日下部の方へ押し出すと、「ど、どうぞ」と頼りない声を上げて言った。。  日下部が驚いた顔をして天谷を見る。 「お前、良いのかよ?」 「別に良いよ」 「はぁ? 無理してんじゃねぇの?」 「無理なんかしてないから、食べて良いからっ、早く、してっ」  じれったそうに言う天谷に、日下部は、「じゃあ、少しだけ」そう言って天谷のラーメンに自分の箸を入れて麺を啜った。  日下部は、ラーメンを飲み込むと天谷を横目に見た後にれんげでスープを啜る。 「ど、どう?」  カチコチに固まった体をやっと動かして天谷が日下部に訊いた。  日下部は「美味いよ」と言うと、優しく笑う。  その笑顔に、天谷はホッとする。  気が付けば体から力が抜けていた。 「あの、日下部。俺も、日下部の、貰ってもいい?」  天谷は自然と日下部にそう言っていた。  言われて、日下部は一瞬心配そうな顔をしたが、直ぐに笑顔を作り、「お前が食べたいなら良いよ」と言って、天谷の方へとどんぶりを動かした。  天谷は日下部のラーメンを目の前にして、ゴクリと唾を飲み込んだ。 (く、日下部のラーメン。他人の食べたラーメン)  箸を持ったまま動かない天谷を、日下部は頬杖をついて横目で見ているだけ。 (じっ、自分から食べるって言ったんだし、食べなきゃ、食べなきゃ、日下部に……)  天谷がチラリと日下部を見ると、日下部と目が合ってドキリとする。  天谷は直ぐに日下部から目を逸らした。 (くそっ、俺も男だ。食べてやる!)  天谷は握った箸を震えさせながらでラーメンを掴むと、そっと口に入れた。  そして、もぐもぐと口を動かす。  日下部のラーメンは味が濃くってスープの絡んだ硬めの麺は食べ応えがあって、そして、ピリリと辛くて。 「どう、美味しい?」  日下部が、そっと天谷に囁く。 (言わなきゃ、何か言わなきゃ)  思ったよりも多く口の中にラーメンを入れてしまって中々天谷は喋れない。  必死になってラーメンを飲み込もうとする天谷に、日下部は、「ゆっくりでいいから」と、優しく言う。 「んっ、日下部の……美味しいよ」  口の中のラーメンを咀嚼しながらやっと天谷は言った。  天谷の台詞を聞いた日下部は「良くできました」と言いながら天谷の頭を撫でた。 「ばっ、ばか。こんな所でっ……ラーメン冷めるから早く食べようぜ」  そう言ってから天谷は勢いよく、自分のラーメンを啜る。 「あっ、熱っ!」 「ばかはお前だ、何やってんだ。水飲め、水」 「う、うん」 「全く、慌ててラーメン食うんじゃねーよ」 「うるさいな、もう」 「はいはい、そうですかっ」  日下部は可笑しそうに小さく笑う。  天谷は不機嫌そうに「日下部のばか」と囁いた。  ラーメンを食べ終わり、すっかりお腹いっぱいになった天谷と日下部は、水をちびちびと飲みながら二人で餃子を突き、話をした。

ともだちにシェアしよう!