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第126話 テノヒラノユキヲ見ㇽ日11p

 学校の話、お互いの日常の話、それから進路の話。  二人は同じ大学を受験するから、お互いが合格できればいいな、なんて話したりする。  二人の話は尽きず、もったいぶって食べている餃子はすっかり冷めてしまっていた。  だが、冷めても、きみ灯篭の餃子は美味しかった。 「なぁ、天谷、これからまだ時間ある?」  日下部が餃子を口の中に入れたまま天谷に訊いた。 「時間ならあるけど」  天谷が答えると、それを聞いた日下部はホッとした顔をして「良かった」と言った。 「何? なんかあるわけ?」  首を傾げて天谷が訊く。  天谷の長い前髪がサラリと目にかかる。  それを日下部が天谷の耳にかけてやる。 「ちょっと、止めろって、そういうの」  天谷は慌てて言った。 「へいへい、ごめんなさい」  日下部は、そう言いながら、荷物置きから自分のリュックを取り出して、リュックのファスナーを開き、リュックに両手を突っ込んで中をごそごそと漁った。 「何やってんだよ」  天谷は怪しそうに日下部を見て言う。 「ちょっと探し物……あ、あった。ほら」  日下部は、リュックの中から二枚のチケットを取り出して、天谷に渡す。  天谷は渡されたチケットを青いライトに照らして見た。  チケットには、雪の降る中で空を見上げる白熊の絵と一緒に『冬の美術館』という文字が書かれている。 「あ、これ」  天谷は、チケットと日下部の顔を交互に見る。  冬の美術館。  市の美術館でやっている、冬をテーマにした美術展だ。  天谷の通っている画塾に、冬の美術館のポスターが貼ってあるのを天谷は見ていた。  ポスターにはチケットと同じ絵が写されている。  描かれた白熊の少し潤んだ目が何かを訴えかけているような気がして、それが何だか気になって、天谷はポスターの前でよく足を止めていたのだった。 「このチケット、うちの予備校の先生から貰ってさ。受験の息抜きに行って来いってさ。二枚貰ったからどうしようと思っていたんだが、良かったら、これから行かないか?」  日下部は、最後の一個の餃子を箸で掴みながら、そっと言った。 「うん、行く」  天谷は即答した。  天谷の返事に、日下部は、実に嬉しそうにした。 「じゃあさ、暗くなるまでどっかで時間潰していかないか? 今日、美術館がクリスマスのイベントで、夜に、特別な展示の仕方をするみたいなんだよ。それが気になっててさ、どうよ?」 「へぇ」  夜の美術館だなんて、想像すると何だか楽しそうだと天谷は思う。 「良いよ」 「やった」  天谷の一言に、日下部はガッツポーズをして子供みたいに喜ぶ。  日下部は、表情が豊かで、天谷はそんな日下部を見ているのが飽きなかった。  つい日下部を見つめてしまう。 「何だよ、人の顔、ジッと見て」  日下部に言われて、天谷は日下部から目を逸らす。 「別に見て無いから。日下部の自意識過剰」 「はぁ? 何だよ、それ」 「も、もういいから、早く餃子食べろよ」 「へいへい、食べますよ」  そう言うと、日下部は、餃子を一口で食べた。

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