128 / 245
第128話 テノヒラノユキヲ見ㇽ日13p
「ううっ、寒っ。店出たら急に寒いわ。天谷、どっか入ろうぜ。夜まで時間潰さないといけねーしさ」
そう言って、日下部はもう歩き出していた。
天谷は慌てて日下部の後に続き、階段を下りながら、「お前は能天気で良いよな」と日下部の背中に言葉を投げかける。
日下部はそれを聞いてただ笑った。
二人はひとまず、カササギデパートに戻ることにして、そこで時間を潰そうと決めた。
ビルを出て、デパート目指して道を歩く二人に、冷たい風が強く吹きかかる。
二人は互いに温め合うようにして、自然と寄り添って歩いていた。
それを、天谷は恥ずかしいと感じたが、寒いから、まぁ、いいか、と思った。
カササギデパートは直ぐそこ。
日下部とはそこで離れたらいい。
デパートに着くまで、日下部の温度を感じながら、日下部の笑顔の横顔を時々見ながら、天谷は寒さを忘れて、日下部の隣にただ、いた。
天谷と日下部はデパートのロッカーに財布とスマートフォン以外の荷物を預け、身軽にして広いデパートの中をぶらぶらと回った。
クリスマスの人混みの熱気と暖房の効いたデパートの中ではコートでは暑いくらいで、コートもロッカーに入れればよかったと二人して後悔した。
「何か、アイス食いたくねー?」
マフラーをほどきながら日下部が言うと、天谷は甘いのは苦手だけど、と思いながらも、「うん」と頷いた。
「じゃあ、後で休憩がてらアイス屋行くか」
日下部の提案に、天谷はまた頷く。
日下部は色々な店の前で立ち止まり、その中へ入へと入る。
天谷が今まで入ったことの無いような店。
天谷は日下部の背中について、恐る恐る店の中に進む。
変わったデザインの時計が並ぶ時計屋に、流行りの物を取り揃えたかばん屋。
普段天谷が絶対に着ないような服を売っている店。
全部趣味に合わなかったけれど、天谷は日下部の隣で決して退屈では無かった。
化粧品売り場に行って、二人でシャネルの№5の香りをかいで、「これがマリリン・モンローの香りかぁ」と、妙に納得してみたり。
今日は図書館で一人で静かに過ごすはずが、こんなにも賑やかしい一日になるなんて。
(楽しい)
天谷は思う。
「天谷、お前、どっか寄りたい店、というか、気になる店、ある? さっきから連れまわしちまってるから」
日下部に言われて、天谷は、少し考えて「本屋かな」と遠慮がちに言った。
どうしても行きたい訳では無くて、日下部が興味が無いなら別に良いや、という気分だった。
「じゃあ行こう」
日下部は即答した。
「え、良いの?」
「逆に、何が悪い?」
「え、えーっと……」
口ごもる天谷にため息を吐きかけると、「ほら、早く行くぞ」と日下部はエスカレーター目指してスタスタと歩いて行った。
「あっ、待って!」
天谷は日下部を追いかける。
ともだちにシェアしよう!