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第128話 テノヒラノユキヲ見ㇽ日13p

「ううっ、寒っ。店出たら急に寒いわ。天谷、どっか入ろうぜ。夜まで時間潰さないといけねーしさ」  そう言って、日下部はもう歩き出していた。  天谷は慌てて日下部の後に続き、階段を下りながら、「お前は能天気で良いよな」と日下部の背中に言葉を投げかける。  日下部はそれを聞いてただ笑った。  二人はひとまず、カササギデパートに戻ることにして、そこで時間を潰そうと決めた。  ビルを出て、デパート目指して道を歩く二人に、冷たい風が強く吹きかかる。  二人は互いに温め合うようにして、自然と寄り添って歩いていた。  それを、天谷は恥ずかしいと感じたが、寒いから、まぁ、いいか、と思った。  カササギデパートは直ぐそこ。  日下部とはそこで離れたらいい。  デパートに着くまで、日下部の温度を感じながら、日下部の笑顔の横顔を時々見ながら、天谷は寒さを忘れて、日下部の隣にただ、いた。  天谷と日下部はデパートのロッカーに財布とスマートフォン以外の荷物を預け、身軽にして広いデパートの中をぶらぶらと回った。  クリスマスの人混みの熱気と暖房の効いたデパートの中ではコートでは暑いくらいで、コートもロッカーに入れればよかったと二人して後悔した。 「何か、アイス食いたくねー?」  マフラーをほどきながら日下部が言うと、天谷は甘いのは苦手だけど、と思いながらも、「うん」と頷いた。 「じゃあ、後で休憩がてらアイス屋行くか」  日下部の提案に、天谷はまた頷く。  日下部は色々な店の前で立ち止まり、その中へ入へと入る。  天谷が今まで入ったことの無いような店。  天谷は日下部の背中について、恐る恐る店の中に進む。  変わったデザインの時計が並ぶ時計屋に、流行りの物を取り揃えたかばん屋。  普段天谷が絶対に着ないような服を売っている店。  全部趣味に合わなかったけれど、天谷は日下部の隣で決して退屈では無かった。  化粧品売り場に行って、二人でシャネルの№5の香りをかいで、「これがマリリン・モンローの香りかぁ」と、妙に納得してみたり。    今日は図書館で一人で静かに過ごすはずが、こんなにも賑やかしい一日になるなんて。 (楽しい)  天谷は思う。 「天谷、お前、どっか寄りたい店、というか、気になる店、ある? さっきから連れまわしちまってるから」  日下部に言われて、天谷は、少し考えて「本屋かな」と遠慮がちに言った。  どうしても行きたい訳では無くて、日下部が興味が無いなら別に良いや、という気分だった。 「じゃあ行こう」  日下部は即答した。 「え、良いの?」 「逆に、何が悪い?」 「え、えーっと……」  口ごもる天谷にため息を吐きかけると、「ほら、早く行くぞ」と日下部はエスカレーター目指してスタスタと歩いて行った。 「あっ、待って!」  天谷は日下部を追いかける。

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