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第129話 テノヒラノユキヲ見ㇽ日14p
天谷の声を聞いて日下部の歩調がゆっくりになる。
天谷はホッとする。
日下部の背中に追いつく。
二人で縦に並んでエスカレーターに乗る。
日下部の背中を見ながら天谷は、彼女とデートする時、日下部はどんな感じなんだろう、と思った。
今日、本当なら、日下部と一緒にいるのは自分ではなく、日下部の彼女で、二人はきっと、カササギデパートのツリーの前で待ち合わせをして、それから、それから二人で……。
高校最後のクリスマス。
何で日下部は自分なんかと一緒に過ごしているんだろう……。
天谷が考えているうちに、エスカレーターの終わりが来た。
本屋へ行くにはあと一階上がる。
エスカレーターを乗り換えてから、天谷は日下部の背中に向かって、「なぁ、日下部、彼女のこと、本当に良かったのか?」と出来るだけ静かに言った。
日下部が振り向く。
「彼女と、今からでも一緒に過ごした方が良くないか? 高校最後のクリスマスなんだぞ」
日下部に、というより、自分に言い聞かせるように天谷はそう言った。
(やっぱり、俺なんかとじゃ無くて、彼女と一緒にっ……美術館も俺じゃ無くて、彼女と……)
さっきまで楽しい気分だったのに黒々とした気持ちが天谷を取り巻いて、息苦しくさせる。
「梨穂子とは連絡取れねーって言っただろ」
「全く連絡取れない訳じゃ無いだろ。メールとか、チャットとかあるじゃんか。連絡して、会いたいって、一緒にいたいって伝えれば、彼女だって……」
「お前、急にどうしたんだよ。もしかして、今日、迷惑だった?」
「そんなわけ……」
エスカレーターの終わりが来た。
二人でエスカレーターを降りて、数歩歩いて、そして日下部が立ち止まったので天谷も立ち止まる。
立ち止まったそこは本屋の店先だった。
「本屋、そこだろ。俺、手洗い行って来るから、先行ってて」
日下部がそっけなく言う。
「えっ」
天谷はビクリとして日下部の顔を見る。
「じゃあ、行って来るから」
天谷に背を向けて日下部は行ってしまった。
「あっ」
天谷は日下部の背中に伸ばしかけた手を引っ込め、しばらくその場に立ち尽くす。
(日下部、もしかして、怒った? 俺、余計なこと言った? ど、どうしよう)
一人青い顔でいる天谷のコートのポケットにあるスマートフォンが着信を告げて震える。
天谷はスマートフォンをポケットから取り出して見る。
着信は天谷のたった二人の友達の一人、小宮一二三からだった。
(こ、小宮から電話。何だろう?)
天谷は電話に出ると、「もしもし、小宮?」と、そう言う。
『そうよー。俺、小宮! 天谷、クリスマスおめでとう!』
小宮の元気な声。
天谷はその声に少しホッとした。
小宮はいつも明るい。
小宮といると、まるで日向にいるみたいに暖かくて、その暖かさに天谷はいつも救われていた。
「電話、何?」
天谷が訊いてみると、小宮は、『うーん、今何してんのかな、と思ってさぁ』と答えた。
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