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第130話 テノヒラノユキヲ見ㇽ日15p
「今、日下部と一緒にいるんだけど」
天谷がそう言うと、『あっ、やっぱりか!』と小宮。
「やっぱり? やっぱりって何?」
天谷は眉間に皺を寄せる。
『あー、お前、もしかして、日下部から何も聞いてない?』
明らかにしまった、という雰囲気の小宮に、天谷はますます眉間に皺を寄せて「何? なんかあるわけ?」と訊いた。
小宮は困ったような声を上げ『日下部が何も言ってないなら俺が言うわけにはいくまいよ』と答える。
だよな、と思いながらも、そんな小宮の台詞に天谷はじれったくなる。
「その日下部と、今、まずい雰囲気なんだ。何かあるなら教えろ、小宮!」
『はぁ? お前ら、また喧嘩? いい加減にしろや。はぁっ……うーん……わかったよ。教えるから。今、日下部は?』
「手洗いに行ってる」
『わかった。じゃあ、手短にな』
ため息の後、小宮は話し出した。
『天谷、日下部に美術展誘われただろ』
「誘われたけど、何? 何で小宮が知ってんの?」
困惑の表情を浮かべる天谷。
『一週間くらい前、日下部に相談があるって言われてさ。その相談ってのが、十二月二十五日、つまり、クリスマスに、彼女とデートするか、天谷と美術展に行くかで悩んでるから、この俺に、知恵を拝借したいと……美術展でクリスマスに特別な展示があるらしく、どうしても天谷を連れてってやりたいと。でも、クリスマスに彼女を放ってはおけないって、まぁ、そんなわけさね。俺のことは? って感じ』
「そんな。日下部、クリスマスなんて忘れてたって! 彼女にも、クリスマス忘れたって言ったって!」
『そんな嘘ついたんか、あいつ……うーん、あのさ、天谷、俺はさ、日下部にこう言ったわけ。天谷か彼女かなんて、彼女の方に決まってるだろって。高校最後のクリスマスに友達と過ごすより、彼女とデートに決まってるだろってさ。彼女の気持ちも考えてみろよって、そう言ってやったわけよ。どう? 俺、間違ってる?』
天谷は一呼吸置いてから「間違って……無いかも」と答えた。
『日下部のやつも、だよな、彼女の方だよなって言ってたわ。なのに、あいつときたら……』
天谷は小宮の台詞を耳を澄まして聞いた。
クリスマスは彼女と……間違ってない。
日下部と彼女はお似合いのカップルで、高校最後のクリスマスを一緒に過ごすのは二人が相応しくて、彼女だって、きっと日下部との思い出を楽しみにしてて、日下部だってそのはずで。
彼女がいる日下部の大切な時間に、今、天谷がいることは不自然なことで……。
なのに、それなのに…………。
「何で俺なの?」
天谷は本来訊くべきではない相手に……小宮にそう訊いていた。
「彼女と俺に嘘までついて、彼女と喧嘩までして、何で俺なの?」
その答えを知っているのは小宮ではなく、日下部だ。
そんなこと、わかっていたけれど、天谷は小宮に訊いていた。
混乱した感情を今すぐどうにかしたくて。
『うーん、お前はどうしてだと思うわけ?』
質問を質問で返された。
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