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第131話 テノヒラノユキヲ見ㇽ日16p

 考えることもせずに天谷は、「そんな、そんなこと訊かれてもわかんない。日下部が何考えてるかなんて、ちっともわかんないよ。会いたいって言って急に呼び出されて……それが俺を美術展に連れて行くのが目的だったとか、知らないし、彼女がいるのにっ……」と沈んだ声で告げる。  日下部の気持ちが知りたい。  でも、知るのが怖い。  わかりたいけど、わかりたくない。    天谷はぐちゃぐちゃになりそうな頭をスマートフォンから聞こえる小宮の息遣いを聞くことで何とか落ち着かせようとする。 『まぁ、俺だってわかんないけどさ、一つわかってんのは、俺と日下部は、いつだってお前に笑ってて欲しいと思ってるってことだよ』 「えっ」  天谷は大きく瞬きをした。 『お前の笑顔が見たいんだよ、俺たちは。そのためなら何でもやんの。だから、日下部は多分、想像しちまったんじゃねーの?』 「何を?」 『美術展行って、自分の隣に笑顔でいるお前の姿をさ』  ハッと天谷は息を呑む。 (そんなこと……そんなこと、あるわけ……)  日下部と小宮がいつだって天谷のことを考えてくれていることは天谷にもわかっていた。  友達になってからずっと、日下部にも小宮にも色んなことを助けられて、色んなことで笑わせてもらって。  笑うこと。  二人といると、こんなにも笑顔になれる。  天谷が笑うと二人も笑う。  二人が笑うと天谷の心が動く。  どうしようもなく、二人に心が反応してしまう。  日の光みたいに暖かくて眩しい二人。  二人が眩しくて……だから天谷は不安になる。  自分の居場所は二人の隣にあるのだろうか、と。  日下部の隣にいるべきは、自分では無くて……。 「彼女が……いるんだぞ」  言った後で、天谷は何故か胸が痛くなる。 『うん。でも、お前の笑顔が欲しくなっちまったんじゃね? あいつ、ばかだから。それで、お前やら彼女やらが気まずくなんないように、ばかなりに二人にばかな嘘ついて、で、お前を美術展に誘ったんじゃん? お前に何も話さなかったのは、そういうことなんじゃね?』 「そんなこと、あるわけ……」 『あるんだぞー! あいつ、ばかだから!』  小宮はケラケラ笑いながら言う。 「笑うなよ、こっちは大変なんだから!」 『はーい! はい!』 「なぁ、小宮、俺、これから日下部と、どうしたらいい?」 『どうって、普通にしてればいいんじゃん?』 「普通になんかできるかよ! だって、日下部が……」 『あのな、天谷』  天谷の話を小宮が遮る。  天谷は小宮の話の続きを聞こうと耳を澄ました。

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