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第132話 テノヒラノユキヲ見ㇽ日17p

『なぁ、天谷、何にも知らないふりして、あいつの側にいてやれよ。お前は何も知らない風で、怒ったり、笑ったりしてればいいよ』 「…………」 『そんなお前を見たくて日下部は今日、お前を選んだんだよ』 「でも、普通に何て、俺……」 『天谷が普通でいられないんなら、俺がお前をさらいに行く』  いかにも真面目という声色で小宮は言った。  その真面目さが小宮と不釣り合いで、天谷は何だかおかしくなった。 「何それ」 『真面目な話しよー』 「不真面目な顔で何言ってんだか」 『無礼! 失礼!』  自然と、天谷の顔が、心が緩む。  くすくすと、天谷は笑う。  小宮も笑った。 「そろそろ日下部戻って来るかも」 『うん、じゃあ。天谷。普通なクリスマスをな!』 「うん。普通に。小宮も」 『了! じゃあな!』 「うん」  小宮との電話が切れる。 (普通に……)  天谷は心の中でそっとそう思う。  本屋の小説の棚の前。  天谷は手に取った小説のページを丁寧に捲り、ページを流し読みしていた。 「遅くなった」  隣から、息を切らせた日下部の声。  天谷は小説を閉じて、横目で日下部を見る。  日下部は少し緊張した顔をしていた。  天谷の方も緊張している。 (普通に)  そう心の中で唱えて、天谷は口を開く。 「めちゃくちゃ待った」  日下部を待っている時間を天谷は長く感じた。  永遠に日下部は戻って来ないのではないか、と感じるほどに。  でも、日下部は天谷の下に戻って来た。  急いで戻って来たのだろう、息を切らせて、天谷の側にいる。 「天谷、ごめん。あの、色々悪かったから」  日下部はそう言って天谷から視線を逸らして頭を掻く。  天谷は首を横に振って、「ううん、俺も、何かごめん」と謝る。  その後で、日下部の顔を見ながら「日下部、まだ一緒にいてもいい?」と、たどたどしい口調で訊いてみる。  日下部は一瞬息を詰まらせると、「ばっ、ばか! いいに決まってるだろ!」と顔を赤くして言った。 「日下部、顔、赤い。暑いの?」  天谷が訊くと、日下部は恥ずかしそうに、「お前のせいだ、ばか!」と言って棚から適当に本を抜き取り、赤い顔のままパラパラとページを捲り出した。  不自然な日下部の態度。  でも、怒ってはいないようで……。 (仲直り、出来たのかな)  天谷は日下部の横で、さっき手に取った小説を棚から出してページを開く。  日下部との距離はあと三センチ。  触れそうで触れない距離。  その距離が何処かもどかしく感じるのはどうしてなのか、天谷は考えないようにした。

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