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第133話 テノヒラノユキヲ見ㇽ日18p

 二人は二時間近くを本屋で過ごした。  小説に飽きたら次は美術書へ、次は漫画。  二人並んで同じ雑誌を立ち読みしたりした。  さんざん入り浸り、立ち読みしたお詫びにと天谷は小説を買って、日下部は雑誌を買った。  今、二人がいるのはデパートの一階のアイス屋の中。  わりと空いている店内で二人掛けの小さなテーブルに着いてコートを着たままアイスを食べている。  天谷はミカンシャーベット。  日下部はブラックチョコクッキーアイス。  二人でカップで買って、ピンクのプラスチックのスプーンでサクサクと食べる。  アイスを食べてから美術展に行こう、ということになったのだ。 「冬にアイスとかって贅沢だよな」  日下部がスプーンに乗ったアイスをしみじみと見ながら言う。 「うん、そうも」  天谷は頷いた。  温かいかっこをして食べるアイスは確かに贅沢だ。 「もう外真っ暗」  店の窓を見ながら日下部が言った。  外は街路樹に取り付けられた電飾がクリスマスの夜を星のように照らしていた。  ガラス越しに、道行く恋人達が手を繋ぎながら過ぎてゆくのを、二人はのんびりと眺めた。 「クリスマスに友達と、ってのも、いいもんだよな」  不意に、恋人達を、目を細くして見ながら日下部がポツリと言う。 「そう?」  本当にそう思ってくれているならいい、と天谷は思う。 「そうだよ」  窓を見たまま日下部は、そう言う。  その顔は優しく笑っていた。 (何だよ、その笑顔は)  日下部を見て、幸せそうなやつ、と天谷は思う。 (良かった)  天谷は、ふぅっ、とため息を吐く。 「何のため息だよ」  日下部が訊く。 「別に」  素っ気なく天谷は答えた。  日下部がアイスの最後の一口を口に運ぶ。  天谷はまだ半分残っている自分のアイスに慌ててスプーンを入れた。 「急いで食べなくていいから」  言われて、「うん」と天谷は答える。    アイスを全部食べ終わるころには天谷の体は少し冷えていた。 「ちょっと温まってから美術展行くか」  日下部がそう言ったのを、天谷は迷わず賛成した。  二人は散々デパートの中をさ迷って、結局、最初に待ち合わせをしたクリスマスツリーの真下の空いているベンチに腰を落ち着けた。  二人の両隣にはカップルが座っていて、いちゃついている。  相変わらず、ツリーの周りは人で溢れかえっていた。  みんな笑顔を浮かべていて、そこら中に幸せがある感じだ。  色々なクリスマスソングが流れてゆく。  その歌を口ずさんでいる男が天谷の目の前を過ぎて行った。  天谷と日下部は、ただ目の前を過ぎてゆく人の波をぼうっと眺めた。  お互い、何も言わずに。

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