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第134話 テノヒラノユキヲ見ㇽ日19p

「愛してる」  天谷の隣のカップルの男が彼女に囁く声が聞こえる。  彼女の恥ずかしそうな笑い声が小さく響く。 「私も」  二人はキスを始めた。  天谷は何だか、いたたまれなくなって日下部を横目で見る。  日下部と目が合って、状況を察したらしい日下部が、ああ……と声を漏らす。 「そろそろ行こうか」  そう言って日下部が立ち上がると、天谷も急いで立った。  ロッカーから荷物を出して、二人は横に並んでデパートの出入り口を目指す。 「さっきのカップル。天谷、ああいうの見るの苦手な」  日下部が笑って言う。 「だって、何だか恥ずかしくなるから」  そう言う天谷は耳まで真っ赤だ。 「お前が恥かしがってどうするんの?」  からかい口調で言われて、天谷は、「うるさい、ばか!」と日下部に可愛くないことを言う。 「お前、そんなんじゃ、恋人出来ないぞ」  呆れ気味にそう言った日下部の台詞に天谷は「出来なくていいよ、そんなの」と答える。 「マジか。お前、やっぱり恋とかしないの?」 「そんなのしたこと無いし、わかんない」  天谷の歩調が速くなる。 「ふーん」  日下部は面白そうな声を上げる。  そんな日下部が天谷は面白く無くて、仏頂面になる。 「だって、俺には日下部と小宮がいるし、それで十分だしっ!」 「俺に……小宮、ねぇ……」  天谷の台詞に日下部は何か考えている様子だった。  そんな日下部の態度に天谷は不安になる。 「何? なんか問題なわけ?」 「別に」  日下部は直ぐに何でも無い顔を作って言った。 (変なやつ。やっぱり日下部の考ええることなんかわかんない)  デパートを出た。  冷たい風が二人に当たる。 「寒っ」  思わず天谷の口からそう言葉が出る。  日下部が天谷に自分のマフラーをクルリと巻いてやる。 「えっ、いいよ。日下部が寒いだろ」 「俺は平気だから。天谷、巻いてろよ」 「でも」 「良いから行くぞ!」  日下部は、そう言うと一人で歩き出した。 「待って!」  天谷は慌てて日下部の背中にくっ付いた。    日下部の背中を頼りに、人込みで溢れる街をすり抜けてゆく。  時折、クリスマスのイルミネーションに天谷が足を緩めると、日下部は足を止めた。  まるで、天谷が気になることは全てわかっているかのように。 「綺麗だ」  イルミネーションにきらめく世界に、天谷の口からそんな言葉が漏れる。  図書館に一人でいたら見ることの無かった夜の街の景色。    イルミネーションで輝く街を抜ければ、冬の美術館の会場はもう目の前だった。

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